2005年02月04日発行872号 ロゴ:なんでも診察室

【製薬企業のための「混合診療」】

 年末から急に寒くなりました。診察室では「どうされました?」「鼻水です」の会話が多くなります。「科学的には、風邪の鼻水を治す薬はありません」と薬を出さない医師もいます。しかし、多くの医師は「カゼですから、カゼ薬を出しましょう」と、カゼに効かない抗ヒスタミン薬、抗生物質、はては漢方薬まで処方します。自然に治る風邪が「薬で治った」と錯覚すれば患者の要望に応えたのかも知れません。同様な感じで、コレステロールや血圧を下げる薬など膨大な薬が乱用されています。

 これが、抗ガン剤になりますと、寿命を縮めるかも知れない薬でも、わらをもつかむ気持ちで追い求められることがあります。このような「患者の切実な要望に的確に対応」したというのが、先月15日に厚労省が発表し、この夏から実施予定の規制緩和策「混合診療」です。変な名前ですが、これは、医療保険が使えない薬や検査を保険診療と「混合」して実施できるという意味で、今は基本的には禁止されています。

 その内容を見てゆきましょう。なんと、この政策の第一にあげられているのが、薬の承認に必要な、患者を対象とした人体実験の簡素化です。簡素化された実験による薬の評価は患者を危険にさらします。異例の早さで承認された抗ガン剤イレッサの副作用多発はそのよい例です。その上、正式な使用承認が出る前に、保険診療と「混合」して自費でこの薬を販売することができるのです。大変危険なことで今まではできませんでした。

 また、今の薬の承認のための人体実験では、検査や一部の薬は保険給付でなく当然製薬会社の負担になっています。今回の「混合診療」政策では、それらの費用を医療保険で肩代わりするのです。「混合診療」政策は、患者ではなく「グローバル製薬企業」の欲望に「的確に対応」しているのです。

 もちろん、「混合診療」政策は製薬会社だけを潤すものではありません。高価な医療技術を保険から切り離し、富める患者でなければ利用できない自費診療にしてゆきます。さらに、胃潰瘍治療やリハビリなど一般的な診療の一部にも自費診療を導入しました。健康保険への政府負担は減少し、患者負担がますます増加、民間医療保険の市場は今の4倍弱に拡大するそうです。

 新薬・新技術の開発でグローバル資本を喜ばすより、今あるものを科学的に厳選する方がはるかに患者の役に立ち、税金や健康保険料を大幅に節約できます。それを、税金や保険料の減額、台風や震災・津波に苦しむ日本とアジア、戦禍に苦しむイラクの人々の医療と生活に使うべきです。

(筆者は、小児科医)

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