2005年02月11日発行873号

【各国部隊が撤退する中 今なぜインドネシア派兵なのか グローバル資本のための大演習】

破壊されたバンダ・アチェの町(『コトパンジャンダム被害住民を支援する会』提供)
写真:

 「スマトラ沖災害復興支援」の名で、自衛隊史上最大の海外派兵部隊がインドネシアに送られている。各国部隊が徐々に撤退を開始している今、なぜこれほどの大規模派兵か。それは、被災国住民の救援を望む国民世論を利用して、侵略国にふさわしい軍事訓練を行い、利権確保のための東南アジア派兵へ実績づくりを狙ったものだ。


「災害復興支援」のうそ

 1月22日、海上自衛隊の強襲揚陸艦「くにさき」はシンガポールで陸上自衛隊員160名を乗せ、戦闘艦(護衛艦)「くらま」・大型輸送艦「ときわ」とともに24日にはスマトラ島沖に到着した。自衛隊派兵史上最大の1千名にのぼる、初の3自衛隊統合部隊がタイ、インドネシアで活動を開始する。

 マスコミには、医療活動などのみを報道させ、インタビューで「被災者救援」を語る。だが、これは「大津波災害での支援活動に反対する人はいない」(政府関係者、1/8朝日)と、世論をあざむくためのものだ。

 スマトラ沖地震・津波災害の救援活動にたずさわっていた各国軍隊はこの間、規模を縮小させ撤退しつつある。災害支援にかかわる国連のウォールストロム緊急援助副調整官は1月21日、「被災地での援助は、どうやって人々を通常の生活に復帰させるかという第2段階に入りつつある」と表明。撤退する部隊に代わって各国政府や民間を中心とした支援体制に切り替えていく必要があるとの考えを示した(1/22NHK)。

 被災住民の救援・生活再建はもちろんこれからだが、国連もこれ以上軍隊の派遣など求めていない。にもかかわらず、日本政府は武装艦船・航空機を含む大部隊を何が何でも、しかもインドネシア1国だけに展開させようとしているのである。

狙いは資源と軍事訓練

 では、何のためのインドネシア派兵か。

利権確保へ派兵実績作り

 目的の第1は、日本のグローバル資本が権益を持つ東南アジア派兵の実績づくりだ。

 インドネシアへの自衛隊派兵は、日本政府・資本にとって長年の「宿願」だった。スマトラ島とマレー半島の間のマラッカ海峡は、日本が中東から輸入するすべての原油が通過するいわゆる「シーレーン防衛」のかなめとされている。日本が輸入する天然ガスの3分の1はインドネシアからで、被災地アチェ州はエクソン・モービル社が開発した産出量の最も多い地域の1つだ。そしてインドネシアへのODA(政府開発援助)は累計額も最大であり、数多くの日本企業が進出している。

 グローバル資本を代弁する日本経団連は1月18日、「わが国の基本問題を考える」との提言を発表した。「シーレーンはわが国の生命線」と言い切り、「国益や国際平和の安定」のために自衛隊海外派兵と集団自衛権行使を明記せよと憲法9条2項の改定を求めた。昨年12月新防衛大綱や通常国会に提出される自衛隊法改悪案も、このグローバル資本の意に沿って海外派兵の本来任務化をうたっている。今回の派兵は、その格好のシミュレーションと位置付けられている。

 外務省首脳は「結果的に海外任務の本来任務化に弾みをつけることになるだろう」と本音をかくさない。

3軍統合大演習を展開

 第2は、初めて陸海空3自衛隊統合の海外軍事訓練を行なうことだ。

 従来、陸海空の3自衛隊はそれぞれの幕僚監部が指揮し、独自に行動してきた。今回、タイ・ウタパオ基地に「現地連絡・調整本部」を設置し、すでに統合幕僚会議から9名が派遣されている。海自の揚陸艦に陸自部隊が乗船して派遣され、現地では事実上、単一の司令部の下で3自衛隊一体の作戦(政府はこれを「統合運用」と称する)が展開される。実際の軍事作戦=戦争に不可欠な3軍統合訓練が実現するのである。

 小泉は、”国連主導の救援”を何度も口にしていた。だが、国連の救援拠点がシンガポールであるにもかかわらず、日本の派兵部隊司令部はタイ・ウタパオ基地に置かれた。派遣された米軍の司令部が設置されているからだ。

 インドネシアを「不安定の弧」とする米軍は、当初から明確に「対テロ戦争」の一環として、空母リンカーンをはじめ24隻の機動部隊、海兵隊など1万5千の大部隊を繰り出した。この米軍と自衛隊との共同作戦訓練がウタパオを拠点に行なわれる。防衛庁幹部は「今回の救援オペレーションは、テロとの戦いを目的とした今後の日米同盟そのもの」と正直に語る。少々のマスコミ向け「復興支援」などカムフラージュにすぎない。

派兵部隊を撤退させよう

 小泉は、大災害への派兵をを「自衛隊の今後をにらんだプレゼンテーションの場にする」(政府関係者)と徹底して利用している。大手新聞・テレビは派遣賛成で声をそろえ、共産党も「純粋な人道支援に限定して、自衛隊が活動することを否定するものではない」(1/17志位委員長)として公然と賛成にまわるなど、危険な状況が生まれている。

 だが、日本の再侵略を警戒するアジア各国はだませない。

 中国の国営通信新華社傘下の週刊誌は、今回の自衛隊派遣について「東南アジアでの影響力を強め、中国に対抗しようとしている」と強い警戒感を明言。「実際は新防衛大綱が示した自衛隊海外活動への強烈な願望を体現化するためだ」との専門家の見方を引用する形で批判した。

 また、東南アジア各国からの自衛隊派兵支持取り付けを狙った大野防衛庁長官歴訪に対しても、「外国軍の駐留というのは、センシティブ(微妙)な問題だ」(インドネシア・ユウォノ国防相)「沿岸国の主権と矛盾しない範囲で協力を」(マレーシア・ナジブ国防相)と、政府レベルでさえ警戒感が表明された。

 軍事演習と利権確保のための自衛隊派兵など、被災地の民衆は望んでいない。被災国の債務帳消しを拒みつづける日本政府に「復興支援」など語る資格はない。

 求められているのは、民衆の国際連帯による支援であり、インドネシアからも、イラクからも、ただちに自衛隊を撤退させることだ。

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