ロゴ:国際法を市民の手に 前田朗 2005年02月11日発行873号

第61回『女性世界法廷(5)』

 2001年8月30日、「人種主義に関する女性世界法廷」が南アフリカのダーバンで開催された。8月31日から9月8日にかけて、国連人権高等弁務官が主催した「人種差別に反対する世界会議」がダーバンで開催され、数万人の人権活動家が結集した際に数多く開かれたNGOフォーラムのひとつとしての「法廷」である。主催はNGOのアジア女性人権評議会とエル・タラー・インターナショナルである。ナタル大学黒人研究所、西ケープ大学女性支援ネットワーク、ダーバン社会フォーラムその他の協賛である。

 基調報告はパレスチナ議会のハナン・アシュラウィが担当したが、パレスチナから本人が参加することが不可能となったため、代読された。アシュラウィは、沈黙、排除、従属、否定といった壁を乗り越えて諸個人の物語を総体として把握することを訴え、声を上げることのできる「私」が「他者」と出会い、「他者」の声に耳を傾け、それを伝えることの意義を強調した。

 法廷の陪審員は次の5名である。ファティマ・メーア(ナタル大学黒人研究所)、アシス・ナンディ(社会発展研究センター、インド)、リゴベルタ・メンチュ(ノーベル平和賞受賞者)、アリリア・シュラー(世界キリスト教協議会)、ピチキン・ンツリ(ナタル大学)。

 法廷は5つのセッションで構成された。

 第1セッションは「他者をつくる」である。植民地においてかつても今も人々がこうむっている恐怖を語ること、特にアメリカ・インディアン、マオリ、アボリジニ、黒人などが経験した「忘れられたジェノサイド」が強調された。ナオミ・キプリ(ケニア、アリド土地研究所)、ミリラニ・トラスク(ハワイ)、テンジウェ・ンティンツオ(アフリカ民族会議)、アネッティ・サイクス(アオテアロア)、ジョセフ・ンディアイェ(セネガル奴隷の家)、ロラ・フィデンシア・デヴィッド(フィリピン、元日本軍性奴隷)などが証言した。

 第2セッションは「他者を忘れることに抗して」である。グローバルな植民地化による普遍的な「他者」の創出と忘却に焦点を当て、ダリット、部落差別、ジプシー、ロマ、少数者などに接近する。レーラ・クマリ(インド、ダリット)、森えみこ(部落解放同盟)、金静寅(在日本朝鮮人人権協会)、ベッティ・ルース・ロザーノ(ブラジル)などが証言した。

 第3セッションは「他者を消す」である。いまや他者は、グローバリゼーション、植民地化、経済制裁のため難民、移住者、逃亡者として存在そのものが消失させられている。リアナ・バドル(創造的女性フォーラム、パレスチナ)、スラトミ・ビディアム(インドネシア)、ママ・デリーナ(ダーバン新女性運動)アルベルト・ペレス・ララ(キューバ、哲学研究所)などが証言した。

 第4セッションは「他者をせん滅する」である。核兵器や放射能の現状がもつ人種主義的側面、もっとも重大なジェノサイド形態としてのせん滅に焦点を当てる。プレグ・ゴヴェンダー(南アフリカ国会議員)、郭貴粉(韓国被爆者協会)、チエコ・タマヨセ(マーシャル諸島)、プリシラ・セテル(先住民環境ネットワーク)などが証言した。

 第5セッションは「あえて夢を見る」である。レジスタンス、補償、賠償を求め、歴史を書き換えてきた女性たちが再び沈黙を余儀なくさせられないために、あえて夢を見る。カルメリーナ・ラミレス(キューバ)、アンジェリーヌ・グリーンシル(アオテアロア)、ワリード・カミス(パレスチナ)などが証言した。

 

(参考文献)World Court of Women on Racism, August 30, 2001. NGO Forum. A Report.

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