2005年03月04日発行876号 ロゴ:なんでも診察室

【高橋晄正先生を偲ぶ】

 テレビ朝日の報道ステーションに、「それぞれの人生」というコーナーがあります。知り合いの方から、1月28日に、私が最も尊敬する医師の高橋晄正先生が出ると聞きました。その時間を待ちかまえたのですが、出てくるのは町村合併に貢献した町長や芸能人で、高橋先生の順番がなかなか来ません。やっと出ましたが、あっという間に終わりました。市民運動として薬害と闘ったこと、60年代以後、厚生省に不要な薬を削除させ11万品目の医薬品を1万5千に減らさせたこと、そのため東大教授間違いなしが、万年講師だったという内容でした。

 高橋先生は医療の効果と害を評価する科学的方法を日本の医学に導入し、製薬会社や政府のちょうちん持ち学者と徹底的に闘いました。さらに、優れた調査能力で、「奇病」とされていた子どもの筋肉障害が注射によるものだと解明されました。私たちは被害者の検診に全国を回り、裁判ではすべて患者側の勝利和解でした。その他、食品、大気汚染、ダイオキシンなど多数の健康問題に科学の光をあて、市民運動に解決の方向を示しました。

 以前、私は製薬会社お抱え学者が多い学会で高橋先生の講演パンフレットを売ったところ、「あの人、まだ生きていたの?」などと本当に嫌がられていました。こちらも嫌がらせで売っていたのですが、こっそり買ってくれる人も相当いました。先の映像は明らかに製薬企業に遠慮したものでしたが、先生の書かれた膨大な本が並べられていましたし、いい動画がないかと私にまで問い合わせに来るぐらいでしたから、制作者はがんばったのでしょう。

 2002年、「生前告別式」とご本人が銘打った講演会が東京と大阪で開催されたことをこのコラムで紹介し、先生の闘うエネルギーの源泉は「不合理への嫌悪」だと書きました。もっと生前告別式をしましょうと言っていたのですが、昨年11月3日に86才で亡くなられたのです。「ちょっと買い物に」と出かけ、心筋梗塞で亡くなられました。少し前に、心臓病で入院されていたそうです。先生のことだから、医者に「この治療法で何人治療し、何人治ったのかね」などと聞いて、「それではやってもらおう」と言ったのだろうと想像しています。皆さんも治療を受ける時はそう聞いて下さい。

 昨年、私たちが書いた喘息薬の論文と劣化ウランの健康障害の論文を送ったところ、おほめの手紙をいただきました。身に余る内容だったので、少し弱られたかなと感じていました。先生の多数の弟子は様々な活躍をされています。私も高橋先生の弟子ですと胸をはれるようにがんばりたいと思っています。

     (筆者は小児科医)

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