2005年03月04日発行877号

【家族を守り夫とともに】

原田清美さん 九州・鳥栖

 昨年12月2日の鉄建公団訴訟集中審理で、原告・原田亘さん(前号で陳述書を紹介)の妻・清美さんも証言に立った。「夫の生き方・人格にひかれて結婚しました」と語り始めた清美さんは、家族を守りながら夫とともに闘ってきた日々を振り返った。陳述書と証言を抜粋する。


原田清美さん(九州・鳥栖)
写真:集会で挨拶をする原田さん

 私は、国鉄職員を父に3人兄弟の長女として小学校6年まで佐賀県西唐津の鉄道宿舎で生活しました。父は、日常勤務の他に台風、大雨等の災害があれば昼夜を分かたず職場へ行き駅舎等の電灯設備や電車線路を点検していたと母から聞かされました。

 72年に結婚した時、母が「楽な生活ではないが安定した暮らしができる」と喜んでいたことを今も思い出します。

 分割民営化で夫は首を切られ、夫としての、父としての人格を否定されました。家族の生活はどん底にされました。

 87年4月1日に夫が清算事業団に配属された当時、生活・育児・介護等不安材料ばかりでした。不採用かもしれないと予想はしていたものの、法治国家日本で労働組合に加入しその方針で行動することで差別・選別されることは「あってはならない」と口癖のように言う夫の言葉に一縷(いちる)の希望を託していました。しかし、「不採用」が現実のものとなり、不安に駆られる気持ちと、どう克服していくか葛藤の日々で「自分にできること」「行動すること」に直面せざるをえませんでした。

家族にとっての17年

 当時、私はパート労働に従事していましたが、賃金・社会保障の面で限界があり、原付バイクの免許を取り青果市場の社員として就職しました。

 90年4月清算事業団を解雇された夫は、闘争団専従としてオルグの任務についたため、社会保険・年金がありません。夫を扶養とする申請を会社に申し出たところ「健常な夫がいて、なぜこんな申請をするのか」と理由書を求められました。たじろぎましたが、夫が闘争団員であること、係争中で就職できない旨の理由書を作成して扶養を取得しました。自らの立場を明らかにすることで、少しだけ強くなった自分に気がつきました。

 家族のそれぞれについて回想してみます。

 87年分割・民営化当時76歳だった母は息子の首切りに「入社の当時は公務員にも内定していた。そちらを選んでいればこんな不幸はなかったろうに」と悔やんでいました。解雇撤回・JR復帰を求めて闘うことを知るや「お上に逆らって」と私に不安と不満をぶつける毎日でした。痴呆が現れ、昼夜となく徘徊が続き、介護を投げ出したくなる時もありましたが、子ども、夫、夫の兄弟の励ましで乗り切ることができました。01年に永眠しますが、正気の時は「首切りを撤回させて職場に戻らなくては」と話す私に「それでよかよ」と言ったこともあります。気がかりだったのだろうと思います。

 87年、長女は14歳でした。塾や部活で帰宅の遅い日々を過ごしていました。授業料の安い県立高校への進学を求める私に「母さんが手に職がないからこんな苦しみを味わう。専門職を取得するために進学したい」と思いもよらない反応でした。事業団3年の中で高等看護学校に進学し、看護師として自立しています。4年制大学のパンフレットを見つけた私に「ちょっと取り寄せただけ」と長女がはぐらかしたことがあります。ささやかな希望を見ぬかれた心の動揺を癒せなかった母親としてのもどかしさと子どものいじらしさに涙でいっぱいでした。

 長男は中学1年でした。私と長女の会話を聞いたのか「僕は勉強嫌いだから」と工業高校へ進学し部活等に必要なものはアルバイトで得ていました。現在は九州の民間会社で元気にがんばっています。

公正判決を求める

 次男は野球の中で成長していきました。清算事業団の時代は解雇という言葉も知らなかったと思います。中学生の時、父が静岡、母は兵庫へのオルグで同時に家を空けたころから父の現状を理解するようになり、祖母と二人で留守を守ってくれました。本人から大学を目指すとの意思表示を受けたとき、驚きと、今さらという気持ちが走りました。夫はオルグで電話でのやりとりもままならず、長女・長男に相談すると「一人ぐらい希望をかなえたら」との回答。1年後に希望の大学へ。奨学金は卒業後自らが返済する、アルバイトと姉・兄の支援で卒業すると約束し、この3月関西へ巣立ちました。

 子どもたちは夫の精神力と愛情の深さ、夫の兄弟の援助などで健やかに成長してくれました。労働組合、意識ある皆さんに支えられた夫や家族は苦しさ故の恵まれた闘いを続けています。曖昧な結果で終わることはできません。

 職場でいじめにあう人たち、リストラで職を奪われる人たちがいます。安心して夫を職場に送り出せる社会へ、公正な判決をお願いします。

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