2005年03月25日発行880号

【〈寄稿〉 新日鉄の強制連行責任を韓国で提訴 本格化する日本の植民地支配追及 日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信さん】

5名の元徴用工が韓国で提訴

 2005年2月28日、太平洋戦争時の日本製鉄釜石製鉄所・大阪工場・八幡製鉄所に強制連行された元徴用工5名が、新日本製鉄に対して1人当たり1億ウォン(約1千万円)の損害賠償支払いを求めて韓国ソウル地方法院に提訴した。

5月2日に行われた提訴の記者会見(ソウル)
写真:原告たちが並んで会見

 新日本製鉄に対する日本国内での訴訟としては、釜石製鉄所に強制連行され爆撃により死亡した遺族の訴訟(1997年9月に新日鉄とは和解、国との裁判が東京高裁に係属中)、日鉄大阪工場に強制連行された元徴用工の裁判(2003年10月最高裁で請求棄却)がある。

 今回の提訴は、2000年プサンで提訴された三菱被爆徴用工裁判に続いて、韓国の司法に日本企業の強制連行責任を問う2番目の裁判だ。それは、決して突出でも特殊でもなく、過去を問い謝罪と補償を求める大きな流れの中にある。

歴史認識に歴然とした差

 提訴の翌日、3・1運動(1919年3月1日、日本の植民地下の朝鮮全土で起きた独立運動)記念行事の演説で、ノ・ムヒョン大統領は、日韓関係について次のように語った。少し長いが引用する。

 「わたしはこれまでの両国関係の進展を尊重するので、過去の歴史問題を外交的な争点にしない、と公言したことがあります。そして今もその考えは変わっていません。過去の歴史問題が提起されるたびに交流と協力の関係がまた止まって両国間の葛藤が高まることは、未来のために助けにならないと考えたからです。しかし、われわれの一方的な努力だけで解決されることではありません。2つの国の関係発展には、日本政府と国民の真摯な努力が必要です。過去の真実を究明して心から謝罪し、賠償することがあれば賠償し、そして和解しなければなりません。それが全世界が行っている、過去の歴史清算の普遍的なやり方です」

 この演説に対して読売新聞は「日韓関係を阻害する」「解決済みの話を蒸し返すような発言はきわめて遺憾だ」とヒステリックに反発。朝日新聞も「大統領演説への戸惑い」という社説を掲げ、「賠償という言葉をいたずらに使うことには、日韓の将来を真剣に考える我々も戸惑う」、いま「過去清算」のことを取り上げるのは日本の「拉致問題」の解決の妨げになるとの主張を展開した。ここに、日韓の過去に向きあう姿勢の落差が歴然と現れた。

戦争責任免れぬ日本政府・企業

 今、韓国内では日本の植民地支配に対する「日帝強制占領下の強制動員被害真相究明委員会」の活動が本格的に開始されている。すでに軍人1万2476名、 軍属8534名、「慰安婦」120名、「労務動員等」4万1211名、合計6万2341名の人々が被害申告を行い(3/10現在)、60年の時を経て被害の全貌が明らかにされようとしている。韓国国会でも、被害者補償に向けて特別法制定が検討されている。

 これに対し日本では、日韓国交正常化40周年の2005年を「日韓友情年2005」としてキャンペーンが大々的に宣伝され、コンサートからスポーツ行事までの文化イベント情報で溢れかえっている。だが、「日韓条約」に触れた企画はひとつも見当たらない。日本政府は、「歴史」に目をつぶり、自らの責任に頬かむりをしているのだ。

 この政府・強制連行企業にくさびを打ち込んだのが、今回の日鉄ソウル訴訟だ。国交回復の「大義」のもと日韓両政府から切り捨てられた犠牲者たちが歴史の闇の中から上げた怒りの声に応え、日韓条約で「解決済み」とする日本政府、補償を拒否する強制連行企業の責任を明らかにしなければならない。

 拉致問題を口実に朝鮮との「戦争」をさえ口にする日本の好戦勢力こそ、戦後補償の実現を阻んできた元凶である。今、日本の戦争責任をアジアの人たちの前にはっきりさせ、謝罪と補償を実現させることが、東アジアの真の平和を切り開くカードとなる。

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