2005年04月22日発行884号 ロゴ:なんでも診察室

【インフルエンザの「特効薬」】

 急に暖かくなり、桜もびっくりしたようで、急いで咲いて、散っていきました。変な気候のせいか、冬の名物であるインフルエンザの流行も、2月にやっと始まって、ごく最近まで続いていました。

 さて、先日もインフルエンザAと診断がついたので、その「特効薬」タミフルは発熱を平均3日から2日に減らす程度で、副作用は嘔吐・下痢が約1割などと説明しました。ところが、お母さんから「この子は、以前タミフルを飲んでしばらくして意識が朦朧(もうろう)となり、目の焦点も合わなかったのでタミフルを飲むのは危険でないか」と聞かれました。昨年の私なら「わかりません」と答えたのでしょうが、今年は違いました。

 実は、昨年末の大阪小児科学会で新しい型のインフルエンザ脳症の紹介がありました。それは実に不思議で、インフルエンザの診断をうけた日かその翌日、眠ったままで死亡していた子どもが大阪で6人いたというものです。

 そのデータを見て「あれ?」と思いました。発表者としてはこの脳症が新型であることを示したのですが、私には飲んでいた薬の方が気になりました。6人中4人がタミフルを飲んでいたことが確認されていたのです。新しい病気が6人出て、そのうち4人も同じ薬を飲んでいればまずそれを疑うべきです。このデータは雑誌にも発表されていましたが、薬を全く疑っていませんでした。

 私のその後の勉強では、製薬会社は1歳未満には使わないように説明しているがこれは動物の新生児で脳に害があることがわかったためであること、にもかかわらず日本小児科学会の調査では1歳未満に相当使われて害も出ていることなどがはっきりしましたが、それ以上には進めませんでした。

 年が明けて、当時タミフルの論文を執筆中の医薬ビジランスセンター・浜六郎氏とお話しする機会がありました。なんと、タミフルによる深すぎる眠りが動物実験でも出現しているのだそうです。私が前述のデータをお知らせしたところ、すごい勢いで追加や確認の情報を入手され、急遽眠ったまま死亡した子どものデータを論文に紹介した上、私を共著者にしていただきました。

 このことは少し後に、ある大手新聞にタミフルの注意情報として報道されました。冒頭のお母さんも、この記事を読んで、はっと思って相談してくれたようです。何しろ、タミフルを世界の7割も使っている日本では、めったに出ない問題点が明らかになってきても不思議ではありません。

 今回のことが、マスコミによって広められたタミフルフィーバーに一定の歯止めになればと考えています。

(筆者は小児科医)

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