2005年05月06日発行886号

【イラク国際戦犯民衆法廷(ICTI)共同代表 前田朗(東京造形大学教授)に聞く 世界に民衆法廷、無防備運動を】

 6月23〜27日にトルコ・イスタンブールで開かれるイラク世界民衆法廷(WTI)。ブッシュ・小泉らに有罪判決を下したICTI(イラク国際戦犯民衆法廷)からも参加する。WTIの意義とICTI運動の成果、無防備地域運動について、ICTI共同代表の前田朗東京造形大学教授に語ってもらった。(4月22日、まとめは編集部)。


前田 朗ICTI共同代表
写真:顔写真

 従来の日本の反戦平和運動は、「憲法9条を守れ」と取り組んできた。それは常に悪法反対や基地反対、自衛隊反対など反対闘争の形になっていった。9条に基づく運動は、国際的に見ても大きな意義を持つ重要な運動だったけれど、残念ながら「9条守れ」というのが精いっぱい。9条を根拠にした運動には限界がきた。その壁をどう乗り越えていくのか、その手探りの一つとして民衆法廷があった。

 民衆法廷運動は、国際人道法の原則を運動に取り入れ、従来の反戦平和運動とは違う局面を切り開いた。学習会や公聴会を開き、資料を集めて勉強し、今まで疎遠だった国際人道法を自分たちが使える武器として活用することができた。

 国際人権法であれば、人種差別是正などの運動がある。国際人道法で運動をしてきた経験はない。一方、政府は有事立法を制定する中でジュネーブ条約、国際人道法に触れざるをえなくなった。通常であれば政府の動きに立ち遅れ、政府がやった後で反対するしかなかったが、民衆法廷は期せずして立ち遅れず、取り組みの中で国際人道法への認識ができてきている。

WTIのバナーを掲げる前田共同代表(トルコ・イスタンブール・3月19日)
写真:パレードの先頭でWTIのバナーを広げる前田さん

 もう一つは、地球を一周するような反戦運動が取り組まれたけれど、イラク戦争は止められなかったという思いが世界にある。確かに一つの限界ではあったが、世界中で単に連帯感だけでなく横のつながり、ネットワークができ、互いに励まし合いながらやっていく、闘える手がかりがいっぱいできた。

世界の民衆法廷がWTIに集合

 その一つがWTI。私がよく言う民衆法廷のグローバル化として世界各地に広がった。ラッセル法廷やクラーク法廷で始まった民衆法廷をICTA(アフガニスタン国際戦犯民衆法廷)やICTIが引き継ぎ、国際法などの知識を総動員して問題に立ち向かうモデルとして提案し広げることに貢献できた。われわれが勝手に思っているだけでなく、WTIもそう言っている。

 それが6月のWTIイスタンブール最終法廷につながっている。トルコのグループは全体を集約する民衆法廷にしようという考えで準備している。例えば、日本には劣化ウラン弾を責任持ってやってくれ、ブリュッセルにはネオコンの思想分析を、ローマにはメディアが果たした功罪を、と。それぞれがやってきたことをもう一度組み立て直し全体でまとめ直す。

 ここで一つの区切りになるような大きな成果を出したい。それは、イラク戦争だけでなく、グローバリゼーションの現代社会を創造的に分析し、その中での民衆の位置、どのような思想を獲得し、どう立ち向かうのか、トータルデザインを作るというのがWTIの課題だろう。ブッシュを裁くことは、世界を覆う資本のグローバルな展開、現代社会そのものを裁くことになる。

人間の尊厳守る市民レジスタンス

 同時に、戦争の被害を直接受けた人たちが被害から回復し立ち直り、民衆自身が再建をどう担っていくのか、そこにわれわれがどう協力できるか、が大切だ。イラクの場合には、武装闘争あるいは自殺爆弾その他様々な事態が起きる中で、大変難しい課題になっている。

イスタンブールでのイラク戦争2周年抗議デモ(3月19日)
写真:プラカードや旗を掲げ集う人々

 侵略に対抗する人民の自決権は、少なくともファシズムの時代までは、武力闘争をやることが当然だった。その後50年間、国際法の発展の下で、侵略される側にも武力行使を禁止する考え方が出てきた。国際人道法の展開から、人間の尊厳を、人権を擁護する考え方が出てきた。抵抗方法もそれなりの考えを持たなければいけない。

 そういう現状の中、ICTIの場で非暴力非武装の闘争形態を模索している人々、イラク市民レジスタンスと出会えた。最も悲惨で最も激しい侵略と虐殺を受けている中から、こういう運動が立ち上がっていることの意味をもう一度考え直す必要がある。非暴力非武装という思想は、平和の中から出てくるのではなく、むしろ最も悲惨な状況に置かれた人々が人間の尊厳をかけて闘うときに出てくる発想であると、改めて感じた。

 非暴力非武装はガンジーが典型だ。ガンジーは南アフリカのアパルトヘイト、黒人差別、インド人差別の中で、その思想を身につけた。インドに戻ってイギリス軍の武力弾圧に非暴力で座り込み、マーチなどで人々にアピールした。イラクの市民レジスタンスも同じような思想的構えができている。

無防備地域を欧州に輸出

 ジュネーブの国連人権委員会で「27の非武装国家」というNGOフォーラムがあった。その報告者でクリストフ・バービーさんというスイス人が『脱軍事化と軍隊のない平和』という本で軍隊を持たない27か国を紹介している。コスタリカやモルジブ、サンマリノなどみんな小さな国だが、国連加盟国192か国の15%を占める。出された一つのアイデアは、その全部の国に集まってもらって、サミットやG7に対抗するピース27という会議を開き、共同宣言する。

 その場で私が無防備地域宣言の話をしたところ、バービーさんは「第1追加議定書は知っていたけど、そういう運動をするというのは思いつかなかった。もっとくわしく教えてほしい」。25年間ILO(国際労働機関)に勤め平和運動をやっているポンチタ・コンチタさんという女性は「それを自治体でやるアイデアは持っていなかった。とてもユニークだ」と発言してくれた。

 「軍隊のないスイス」という運動がある。軍隊廃止の国民投票では30数%の賛成を得たが、否決された。しかし、続く「スイス軍が戦闘機を買うのに反対」という国民投票は勝った。その運動に関わっているミシェル・モノーさんは「無防備運動は非常にユニーク。軍隊のないスイスをやった時は、州でやろうとは思いもつかなかった。私のいるカントン州の仲間と検討してみる。日本のやり方をくわしく教えてくれ」と言う。夏からは無防備地域運動をヨーロッパに輸出しようと考えている。

大阪から始まった新しい平和運動

 私は思いつかなかったが、大阪のグループが地方自治体の条例制定に結び付けて、平和運動の新しい形を提示した。反戦平和だけれど反対だけじゃなく、人々の暮らしの中に直接訴えかけながら、条例作りのために署名運動をやりましょうと、積極的に前に踏み出していく。そこが従来の反対署名運動とは違う。

 大阪から枚方、荒川、藤沢と運動として積み上げられてきているが、否決事例も積み重なっている。否決されているからだめと単純に言わせない運動の組み立て方が今後は必要。沖縄でも始めたいという動きが起こっている。条例化の可能性は高い。今年中に世界初の無防備条例制定都市ができてほしい。でないと、来年はスイスでできるかもしれない。

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