第2次大戦中に中国から強制連行され、過酷な労働を強いられた北海道の炭鉱から脱走し、13年間逃亡生活を送った劉連仁さん(00年に87歳で死去)の裁判で東京高裁は6月23日、国に2千万円の賠償を命じた1審判決を取り消す逆転不当判決を言い渡した。
「軍国主義の表れ」
不当な政治判決に怒りの劉煥新さん(6月23日)
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裁判長が「原判決を取り消す。請求をいずれも棄却する」と判決要旨を読み上げると、傍聴席から「人間のやることか」「腐り切っている」と怒号が飛んだ。
1審の東京地裁は賠償命令とともに、国による強制連行と強制労働の被害事実と戦後の救護義務違反を認定した。しかし、高裁判決は、事実も救護義務違反も認めながら、不法行為から20年で損害賠償請求権が消滅するとされる除斥期間の適用について「著しく正義、公平の理念に反する特段の事情があると認められない」とし、1審が除斥期間の適用を排除して国の不正義を断罪したのとは全く逆の判断を下した。また、「中国には87年まで国家賠償を認める法律がなく、劉さんが発見された時点では日中国民が相互に賠償を求めることのできる『相互保証』は成立していなかった」と、争点にもなかった新たな判断を加え、請求を退けた。
訴訟を引き継いだ長男の劉煥新さん(60)は父の遺影を抱き続け、裁判所前や記者会見で不当判決に怒りをぶつけた。「これは日本の軍国主義の表れ。今ぎくしゃくしている中日関係に油を注ぐ行為だ。平和を求め戦争に反対するための反面教材となる。このままでは父は安心して眠れない」と、靖国参拝に固執し戦争国家作りを進める小泉内閣を後押しする政治判決であることを鋭く告発した。
中国では163万人署名
この日に先立ち中国では、公正判決と解決を求めるインターネット署名163万人分が寄せられた。判決報告集会では劉さんと一緒に来日した康健弁護士から、中国弁護士協会・抗日戦争被害者救援会など3団体の合同声明が読み上げられた。「戦争を起こした国には二つの態度がある。ドイツは反省して被害国に謝罪し、理解と尊敬を得られた。日本政府は60年が過ぎても本当の反省も謝罪もせず、歴史を直視せず、自国民までだまそうとしている。日本がアジアの被害国の国民に謝罪と補償を行わないかぎり、国際社会の中で積極的な役割を果たす資格はない」と厳しく非難した。