2005年07月22日発行896号 ロゴ:なんでも診察室

【ウラニウムの化学毒性】

 ベルギーの首都ブリュッセルに行って来ました。柳氏の後ろにくっついて、家を出てかれこれ18時間で夜のブリュッセルに着きました。びっくりしたのは、夜9時をすぎているのに昼間のように明るいこと、それに暑いこと。緯度で言えば、北海道よりずっと北なので、セーターを持ち込んだ私がばかでした。ほとんど半袖やタンクトップでした。現地で環境問題に取り組んでいる人の話では、20年ほど前からどんどん暑くなっているとのことであり、地球温暖化を特に実感しているようでした。

 何をしに行ったのかというと、ウラニウム兵器禁止を目標とするICBUW(国際ウラニウム兵器禁止連合)という国際的集まりに参加したのです。英語さっぱりの私には、参加というより、雰囲気を読みとりに行ったという方が良いかも知れません。

 会場は、英ブレア首相が演説をしている最中の欧州議会ビルでした。飛行機に乗るような厳しいチェックがある面倒なところでしたが、快適な会議室、ただのミネラルウォータ、安くてボリューム満点の昼食、その後の議員へのビラまきなど楽しい経験をさせてもらいました。

医学的な研究を受け持っている私には、元WHO(世界保健機関)放射線防御部門のチーフだったベイバーストックさんに時間をとってもらって話ができたことが大きな成果でした。ウラニウム兵器が毒性を持つことを明らかにした論文を書いて職を失った方です。それだけに、世界の研究を大変良く総括し、本当のことを書いています。特に、ウラニウムの化学毒性を明確に指摘しています。日本ではこの点はあまり指摘されていませんが、ウラニウムは水銀やカドミウムなどと同様に重金属としての大変な化学的毒性を持つのです。

 もちろん、彼は放射線毒性を否定しているわけでなく、たとえ小さい放射線量でも、直接放射線に当たった細胞が隣の細胞に障害を伝える「バイスタンダー効果」により、ウラニウムが大きな影響を与えることを強調しています。ただ、私が調べた範囲では化学毒性に加えて、放射線毒性があることを実験的に証明した報告論文はほんの少ししかありません。このことを彼に確かめたところ、同じ意見でした。従って、放射線毒性だけで、しかも理論的な可能性だけで論陣をはるのは困難さがあります。放射線と化学毒性が相まって、奇形や生殖異常、湾岸戦争症候群、ガンの多発を生み出すことが問題なのです。

 たった2日半の滞在でしたが、他にもたくさん得るものがありました。ただ、ベルギービールをたらふく飲む予定が、たった2種類飲めただけだったのがなんとも心残りです。

   (筆者は、小児科医)

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