2005年09月09日発行902号 ロゴ:なんでも診察室

【学齢期の子どもの運動】

 7月の子ども全交(志賀高原)に救急班として参加しました。幸い、急病は腸炎のお子さん1人だけでしたので、幼児グループと山に登りました。うれしいことに、手をつないでくれるお子さんがいました。私が「そこは苔が生えているからすべるよ」といっても信用せず、3回すべってから「おっちゃん、ここはすべるで!」と、苔をよけながら得意そうに歩く姿は、本当に生き生きとしていました。身体を動かすこと自体が幸せなんだ、と再認識した次第です。

 ところで、私は、子どもには最低どれほどの運動が必要かについて、きちんとした根拠を示した研究を知りませんでした。最新のアメリカの小児科学雑誌に載せられた「根拠に基づいた学齢期の子どもの運動」という論文はすごいものでした。この研究グループは、肥満・喘息・精神病・勉強・授業態度などと運動の関係を調べた世界中の850論文を検討しています。そして、運動は、関連を調査した諸問題に良い影響を与えており、学齢期では1日60分以上の相当激しく、かつ年齢に会った楽しく多種類の運動が必要と結論しています。

 しかし、最近ではそんな余裕がある子どもは少ないようです。日本学校保健会の調査では、学校での部活や自由時間を入れても、男性児童の3割が1週間で運動時間が6時間以下、女子はもっと少ないそうです。古いデータしかないのですが、運動が少ない理由は、時間がない49%、場所がない25%、仲間がいない11%などです(1992年東京都教委調査)。他方で、肥満の子は、小・中学では4・7から11%にもなっています(2002年文科省調査)。

 私の属する医療問題研究会では、フィリピンのポールガラン氏が運営する、スラムなどの教育施設で毎年健康診断をしていますが、ここでもぽつぽつと肥満児が見られるようになりました。教育内容が良いので、経済的に余裕のある子も通い始めたためです。しかし、スラムの子どもたちは1日1食の子が多く、3割近くが栄養失調に陥っています。運動不足にカロリー過多の少数の子どもたちと、深刻な栄養不足の多数の子どもたちが併存しているのです。

 さて、昨年11月発行の著名な医学雑誌「ランセット」に、イラクでは米英軍や自衛隊の占領のために、子どもを中心とする10万人以上が栄養失調・病気・暴力で「超過死亡」したとする調査報告が載りました。先日、イラク自由会議(IFC)のアザド・アフマドさんから、米軍の占領下で多数の子どもが、栄養失調にあえぎ、暴力・麻薬・性的な餌食とされている生々しい話を聞きました。彼らはイラクの子どもたちに安全と栄養をもたらすプログラムを計画中だそうです。ぜひ支援したいものです。

(筆者は、小児科医)

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