2005年09月30日発行905号

【進む国民保護計画策定 地域の軍事化の監視を】

 小泉の戦争国家作りに地域社会を組み込む国民保護計画が都道府県段階で次々と策定されようとしている。国民保護計画では住民は守れない。その矛盾を明らかにし、市民からの対案である戦争協力拒否の無防備地域宣言運動を強めよう。


住民を守らない

 都道府県レベルの国民保護計画策定が進んでいる。8月29日には東京都が素案を、9月1日には大阪府が概案をそれぞれ発表した。

 国民保護計画は、「武力攻撃事態」=戦争状態が発生したときに発動される有事法制の1つ、国民保護法に基づき作成される。

 国民保護法に基づき、国は今年3月「国民の保護に関する基本指針」を定め、この指針にそって都道府県が国民保護計画を05年度中に策定。都道府県の計画をうけて、06年度中に市町村が策定することとされている。

無防備地域宣言こそが対案
写真:無防備地域宣言こそが対案

 国の基本指針は生命・財産の保護についてはまったくデタラメかつ非現実的なものだ。

 武力攻撃事態を (1)着上陸攻撃 (2)ゲリラや特殊部隊による攻撃 (3)弾道ミサイル攻撃 (4)航空機攻撃の4類型を想定。(1)については攻撃が事前に察知できるとのことから先行避難・広域避難とし、(2)から(4)については突発もしくは発生から避難までの時間が短いことから屋内避難が基本とした。

 東京都も大阪府もおおむねこれにならい避難の指示を定めている。しかし、(1)については、数十万人の住民を安全に速やかに避難させる手段などあろうはずもない。(2)〜(4)についても、「避難」の名に値するものではなく、ごく当たり前のことを並べたに過ぎない。

 また、NBC兵器(核・生物・化学兵器)からの攻撃への対処については、「手袋・帽子・雨ガッパなどで外部被爆を抑制する」など、冗談としか思えないような方策が想定されている。つまるところ、いったんことが起こればどうしようもないということを白状しているのだ。

 国民保護法の下での保護体制とは、住民の犠牲が前提となっている。国民保護計画は住民を守らない。

「首都防衛」のための計画

 では、なぜ、実効性に欠き非現実的な国民保護計画を小泉は作らせているのか。

 それは、国民保護に名を借りた戦争国家作りを地域のすみずみにまで行きわたらせるためだ。

 基本指針とこれを引き写した都府県の国民保護計画は、「当直等24時間の即応体制」をうたい、職員の緊急呼集の体制作りを定める。また、避難訓練については「実際に資機材を用いて行うなど実践的なものとするとともに、訓練後には評価を行い、課題等を明らかにする」としている。単なる行事ではなく、常に実戦を想定した訓練を強いる。このことを通じて自治体職員と住民に対し、危機に対する意識を異常なまでにあおり、問答無用で地域の軍事化を進めることにある。

 だから、住民の避難保護についてはなおざりにしても、国→都道府県→市町村→住民の指揮命令系統の整備だけは怠らない。

 とりわけ東京都の保護計画は、大阪府などに比べて体制作りに重きを置く。

 内閣官房・海上保安庁・警視庁・東京消防庁・自衛隊・その他指定行政機関(国の出先機関)・首都圏を構成する8都県市との連携のみならず米軍との調整も視野にいれている。

 また、輸送施設に関する情報の把握として(1)道路(路線名、起点・終点、車線数、管理者の連絡先等)(2)鉄道(路線名、終始点駅名、路線図、管理者の連絡先等)(3)港湾(ふ頭名、係留施設数、管理者の連絡先等)(4)飛行場(飛行場名、滑走路の本数、管理者の連絡先等)と個別具体的な基本情報の収集を明示。避難施設についても、管理者のみならず施設のトイレ・シャワーから給食設備の有無などを把握し、面積変更などの届け出も求めている。

 また、他府県の計画素案では漏れがちの「住民の義務」についても、「武力攻撃災害の兆候を発見した場合の区市町村長等に対する通報義務、不審物等を発見した場合の管理者に対する通報の方法等について、啓発資料等を活用して住民への周知をはかる」と明記している。監視カメラがいたるところに普及している東京のような大都市では、このような義務付けの強調は、住民相互の監視社会を強化することとなる。

 そして、素案は「首都防衛のため都内に防衛力が集中した場合に、道路等の利用に関して防衛行動と住民避難との錯綜を避ける観点から、国との連携強化を図る」と、住民保護と首都防衛を同等にあつかう。

 「人・物・通信」を一手に管理下に置き、従来から行っている自衛隊と連携しNBC兵器テロをも想定した防災訓練を強化することで「首都防衛」の中核的役割を果たそうとしている。

「保護計画」に「無防備」を

 大都市を抱える都道府県では愛知県・福岡県もすでにパブリックコメント(注)を募集している。神奈川県も国民保護協議会で素案をまとめており、兵庫県は8月19日の国民保護協議会第2回企画部会で委員や関係団体からの意見聴取に入ることを確認した。京都府は11月には素案をまとめ意見募集する予定だ。東京は9月30日までを意見募集期間とし、大阪府もパブリックコメントを行うとされている。

 小泉が地域の軍事化をいくら強硬に推し進めようとしても、戦争放棄と地方自治の尊重をうたう日本国憲法のもと、住民の意思を全く無視することはできない。地域の軍事化に対抗する対案は、地域から戦争協力を拒否する無防備地域宣言条例化の運動だ。

 この運動を進めるとともに、平和を創造する地域住民の意思として、国民保護計画の内容と実施の進捗状況をつぶさに監視しよう。関連する会議の傍聴や意見表明の機会の拡大を追及し、パブリックコメントなどあらゆる手段を通じて「戦争協力のための国民保護計画ではなく、無防備地域宣言の選択を」「地域の非軍事化と平和行政の推進を」「自治の場に職業軍人を関与させるな」の声を突きつけていこう。

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【注;パブリックコメント】

 行政機関が政策の立案等を行おうとする際にその案を公表し、この案に対する広く意見や情報の提出を受け、提出された意見等を考慮して最終的な意思決定を行うというもの。

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