2005年10月07日発行906号 ロゴ:なんでも診察室

【アスベストは労災】

 去ってしまった夏の話で恐縮ですが、一昔前は「あせも」対策で、白いベビーパウダーを顔や首に塗られた赤ちゃんが夏の風物詩?でした。かえって皮膚が不潔になる、などの理由で最近ではすたれていますが、その中に今問題になっているアスベストが入った商品があったことを思い出しました。学校の校舎にアスベスト材が使われていることが問題になった1987年頃だったと思います。

 今年6月、クボタは工場周辺のアスベスト被害者へ見舞金をだすと「決断」したのですが、それをさせた主要な力は、被害者や労働組合の長年の粘り強い闘いでした。その闘いを知らなかった私は、反省をこめて多少の勉強の上、新聞報道を追って見て、変だと思いました。

 まず、労災隠しが意図されています。悪性中皮腫患者の8割がアスベスト関連の労働をしていたと推定されるにもかかわらず,労災認定は年間90人程度で発生患者の1割にすぎません。残りの7割が労働と関連するのに労災認定されていませんが、このことはほとんど報道されていません。

 クボタは家族・周辺住民などに200万円の見舞金を出すようですが,総支給額が数千万円になる労災死亡の給付金と比してきわめて低額です。毎日新聞社説の「今後の最も重要なことは家族や周辺住民の救済策だ」「労災ではなく、公害である」(7/30)は、企業の意図を露骨に表現しているように思えます。

 もう一つは、悪性中皮腫ばかりが報道されていることです。確かに、悪性中皮種はアスベストによる特異な病気ですが、アスベストはその2倍の肺ガンを引き起こすと推定されています。悪性中皮腫は2003年で約900名ですので,肺ガンは1800名になります。クボタやそれに追随する企業も、補償対象を悪性中皮種に限定しようとしています。アスベストを吸い込んだ可能性があれば、肺ガンも労災認定や補償をされるべきです。それが、WHO(世界保健機関)とILO(国際労働機関)が発ガン性を指摘した1972年以後も対策を遅らせてきた政府・企業の責任だと思います。

 現在検討中の「アスベスト新法」は、これまでの報道内容に沿って準備されたかのように、アスベスト被害を悪性中皮腫に限定し、被害者補償は一時金で解決しようというものです。

 今回の報道を、補償問題から、アスベスト全面禁止、既存アスベストの除去・廃棄など抜本的対策に結びつけてほしいものです。また、90年代後半からアジアへのアスベスト関連企業の進出が急増しており、地球規模での禁止が必要と思いました。

(筆者は、小児科医)

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