2004年07月30日発行848号 ロゴ:なんでも診察室

【生物テロ対策と結核予防法】

 電車の中で「不審な荷物がありましたら係員までご連絡下さい」というアナウンスを耳がタコになるほど聞かされています。この不審物に「炭疽(たんそ)菌」のような生物兵器も含まれているのでしょうか。

 ヒトラーのように嘘も繰り返せば本当になるのか、小泉内閣は、毎日宣伝しているテロ対策を医療・福祉改悪に利用しようとしています。国民病と言われ、いまだに「先進国」で最悪レベルの結核蔓延に対する総合的施策=結核予防法が、生物テロ対策を口実に切り捨てられようとしているのです。

 結核菌の1種にほとんど薬が効かない「多剤耐性菌」というのがあります。それを生物テロに使われると困るから、結核予防法をやめて「炭疽菌」やインフルエンザなどと同じ「感染症法」に統合するというものです。

 結核予防法の最も積極的な内容である、患者や家族に対する治療、入院に対する経済的保障や保健所による病院紹介、生活保障のための社会的資源の活用までが全部切り捨てられてしまいます。

 結核は、貧困と関連しているうえ、他の感染症と違い、菌が移ってから発病までとても長くかかるので感染症の中でも特別の対策が要るのです。また、発病まで数年から十数年もかかる結核菌は、数年後にしか結果がわからないのですから、生物テロとして極めて「不向き」な菌です。その結核菌が生物テロに使われることを理由に、結核予防法を廃止しようというのですから、「テロ対策」を先導する東京都にさえ反対されています。

 米国では、バイオハザードとかバイオテロ対策の名で巨額の予算が付くようになっています。2003年のバイオテロ対策に7千億円を使い、米国立保健研究所にテロ対策予算として過去最大の2千億円も増額しました。かってない医療福祉切り捨てのブッシュ政権が惜しげもなく支出しているのです。

 日本でも、日本の医学研究の大部分を網羅している「医学中央雑誌」というデータベースでバイオテロないし生物テロ関連の医学研究を検索してみますと、1991年から2001年の11年間でたった2件なのに、2002年から2005年では201件に跳ね上がっています。日本でも医学界に多額の予算が流れていることは確かです。

 このような状況を見るとき、国民が食べるのにもこと欠いていた戦中に、莫大な予算で中国・朝鮮・ロシアの人々を人体実験に使って、「防疫」(流行から守る)と言いながら生物化学兵器を開発した「七三一部隊」を思い出さずに入られません。生物テロ対策は、生物兵器の開発と表裏一体なのです。

    (筆者は、小児科医)

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