ロゴ:国際法を市民の手に 前田朗 2005年12月09日発行915号

『コリア戦犯法廷(11)』

 2001年6月にニューヨークで開催されたコリア法廷と、2003年7月に平壌で開催されたコリア法廷を紹介してきた。最後に両者を比較しつつ、簡単なまとめをしておこう。

 最初に確認しておくべきことは、平壌法廷が開催された理由である。これはニューヨーク法廷に朝鮮代表が参加できなかったためである。ニューヨーク法廷は、南北朝鮮、在日、在米の朝鮮人と、アメリカの平和団体の協力によって実現した。アメリカの平和団体の中心は国際行動センターと平和のための在郷軍人会である。韓国側は「朝鮮戦争におけるアメリカの戦争犯罪に関する韓国真相委員会」が報告書を提出し、代表を派遣した。朝鮮側も「民主的統一のための国民戦線調査委員会」が報告書を提出して参加しようとしたが、アメリカ政府による入国拒否のため、法廷に参加できなかった。このために2年後に平壌法廷が開かれることになったのである。

 次に、検事団と起訴状である。ニューヨーク法廷の主席検事はラムゼー・クラークであった。平壌法廷の検事は公表された起訴状には記載されていないが、法廷と同時に開催された国際会議を主催した朝鮮民主法律家協会メンバーによるものと推測される。起訴状の内容は、ニューヨーク起訴状が現代朝鮮史を3段階に歴史区分して整理しているのに対して、平壌起訴状は現代朝鮮史全体をひとまとめに扱っている。

 両起訴状とも、被告人は政府ではなく個人としているが、トルーマン政権からブッシュ政権に至る大統領、国務長官、国防長官、CIA長官などの全員を被告人としているので、むしろ実質的にはアメリカ政府の責任を問うものといえよう。

 適用法条もおおむね共通で、国連憲章、ニュルンベルク憲章、ハーグ規則、ジュネーヴ諸条約などの国際人道法、世界人権宣言や国際人権規約などの国際人権法、アメリカや韓国の国内法などである。この点では、平壌起訴状は、カイロ宣言、ポツダム宣言、東京裁判憲章なども参照している点で歴史の検証が詳しくなっていることと、核兵器不拡散条約、テロリズム予防条約、麻薬生産制限協定などにも言及している点に特徴がある。

 被害事実に関しても、ニューヨーク起訴状よりも平壌起訴状のほうが詳しくなっていて、各地の民間人被害が具体的に記載されている。調査の進展もあるが、2度目の法廷だけにより充実した内容になったのであろう。

 法廷に提出された証拠や証言については、平壌法廷の場合、詳細がウエッブサイトに公表されていないため具体的内容は不明である。ニューヨーク法廷の場合は、歴史家証人、被害者本人、ジャーナリスト、平和運動家など多数の証人が写真、映像、証拠物を持参して証言している。平壌法廷も同様の証言を採用しているであろう。

 判事団についてみると、ニューヨーク法廷裁判長のジテンドラ・シャーマが平壌法廷でも裁判長を務めている。この点でも法廷の連続性が明らかである。それ以外の判事に重複はないようである。ニューヨーク法廷は30人の判事団だったので、むしろ大型陪審団といったほうがよいだろう。平壌法廷は7人の判事団である。

 ニューヨーク判決は、第二次大戦後一貫して行われたアメリカの朝鮮政策全体を戦争犯罪と位置づけて、19の訴因について全ての被告人を有罪とした。在韓米軍の存在を「占領軍」として把握して、その撤退、朝鮮に対する経済制裁の中止、朝鮮統一の妨害策動の中止を勧告している。平壌判決もすべての被告人、すべての訴因について有罪とし、朝鮮人民に対する謝罪と補償、責任者処罰、真相解明、朝鮮問題の平和的解決を勧告している。

 朝鮮半島情勢はなお流動的であるが、2つのコリア戦犯法廷が提示した歴史観と判決の法理は今後も忘れることなく、常に再確認される必要があろう。

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