ロゴ:怒りから建設へロゴ 2005年12月16日発行916号

第4回『治安の悪化は占領の結果 / すべての武装を解除せよ』


地図

 イラクでは12月15日の国民議会選挙を前に戦闘が激しさを増している。市民生活・社会サービスの再建などそっちのけで、利権の分け前に預かろうとする政党・団体が血みどろの争いを行っている。何度「選挙」を繰り返しても民意が反映することはない。占領軍とイスラム政治勢力は民衆を不安と恐怖に突き落とし、自らの存在を誇示している。誰が混乱を引き起こしているのかは明白だ。(豊田 護)

日常化した爆発

 「今朝早く、近くで爆発音を2回聞いた」

 1年2か月ぶりのキルクークの朝はそんな言葉で始まった。“どこどこで爆発があった。誰々が殺された”−こんな言葉が日常のあいさつの中に入り込んでいる。昨年の取材のときは、夜ふけの庭先でビールとバーベキューで歓待された。銃撃音といえばイラクサッカーチームの勝利を祝う号砲だった。空に向けられた銃口が今年は人に向けられている。変化は著しい。

ホームステイした家。就寝時には銃が傍らに
写真:床の上におかれた銃

 「家の外には一切出るな。玄関の扉も決して開けるな」。これが今年の忠告だった。外国人がいることを知らせないことが、安全を確保する一番の方法だからだ。

 今回の取材では、イラク国内で13夜を過ごした。キルクークで6泊、スレイマニヤなどクルド地域で7泊。アルビルでの1泊以外、IFC(イラク自由会議)関係者など信頼の置けるメンバーの自宅にホークステイした。治安がよいと言われるクルド地域でも、3日として同じ家には滞在しなかった。就寝時には、手近なところにカラシニコフ銃がおいてあった。家主がもしもの時のために、傍らに寝た。

利用しあう武装集団

 占領軍の空爆と武装勢力の爆弾攻撃が毎日のように繰り返されている。クルド地域ではまだまれだが、戦闘を正当化したい勢力はこの地域も巻き込もうとしている。

 スレイマニヤの地方政府施設近くで、10月25日、自動車爆弾事件があった。13人の市民が死んでいる。イスラム政治勢力の犯行だった。取材でスレイマニヤを訪れたほんの1週間ほど前だった。

 スレイマニヤ市民生活防衛委員会で活動するノザッドは勢い込んで言った。「タラバニ大統領は事件を未然に防げなかった言い訳として『テロ集団を取り締まる計画を米軍が妨害した』と語った」。米軍・政府・武装勢力、3者の関係がすぐには理解できなかった。「米軍がイスラム政治勢力をクルドに呼び込んだということか」と真意を確かめた。

 「確かなことは言えない。だが誰しも疑問に思っていることがある。占領前には自爆する者などいなかったのに、サダム体制崩壊後なぜ自爆するテロリストが現れたのか」

 慎重な言い回しながら、ノザッドの勢いはとまらない。

 「憲法の国民投票の間はそんなに事件は起こらなかった。なぜだ。占領軍に支えられるすべての諸政党が駆け引きに忙しかったからだ」

 占領軍が仕掛けた爆弾事件もある。イスラム政治勢力による自爆攻撃もある。クルド政党はイスラム政治勢力と取引をしていると指摘する者もいる。真相はわからない。だが、この犠牲になっているのがイラク民衆であることは間違いない。

主要路に設けられた検問所(10月31日・キルクーク郊外)
写真:統制のとれない検問所

 「バグダッドはきわめて危険な状況にある。今朝銃撃戦があり、2地区が封鎖されている。いつなんどき事件に巻き込まれるかわからない。取材に行くかどうか相談したい」

 IFCのサミール・アディル議長はいつになく真剣な顔で聞いてきた。バグダッドにおけるIFCの前進、成果を確認したかった。昨年取材したアル・ジハード地区のその後も見たかった。だが、リスクは大きい。バグダッド行きの判断は、彼らにまかせる以外にない。

 「キルクークとバグダッドの間には8か所の検問所がある。1か所通過できたとしても、すべてが通過できるとは限らない。検問所はイラク内務省が管轄するが、内務省はギャング集団の巣窟だ。各派のメンバーが入り乱れ統制がとれない。スパイもいる。私自身、移動する度に危険が増している」

 占領軍も政府も治安の確保など考えていない。まして、イスラム政治勢力は言うまでもない。

安全は武装解除から

 11月10日朝、バグダッドの中心地ラシッド通りに面したレストランが爆破された。安くて評判の店だった。貧しい人の利用が多かった。サミール議長のボディガードもちょうどその日、食事に使った。店を出て15分後、爆発は起こった。35人が死んだ。危険は身近に迫っている。

米軍の戦車にひかれたアジズさんの車
写真:車の半分が完全につぶされている

 キルクークにある連帯地区のアジズ議長も危うく命を落としかけた。キルクーク市内を車で移動していたところ、戦車を含む米軍の車列と出くわした。米軍の戦車は交差点で曲がろうとするアジズの車をお構いなく踏みつけて行った。車は後ろ半分がぺしゃんこになった。運転席はかろうじて助かった。記者がイラク入りする2日前のことだった。

 ファルージャ、ラマディなどへの空爆は続いている。街では結婚式や葬式、モスクやレストランにまで爆弾が仕掛けられ、自爆犯が紛れ込んでいる。偶然、事件に巻き込まれる可能性は日々高まっている。むしろ、偶然にも命があったと思える状況の中にイラクの民衆は暮らしている。

 一刻も早く、戦闘の芽を絶たねばならない。16万人を数える武装集団・占領軍の即時撤退、イスラム政治勢力の武装解除が必要だ。反占領、政教分離を掲げるIFCの前進に期待が寄せられている。

(続く)

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