2005年12月30日発行918号

インタビュー どうする!インフルエンザ

【林敬次さん、山本英彦さん(医療問題研究会) / ワクチンは効果なし、タミフル頼みは危険 / 無理せず休養が一番のクスリ】

 「新型インフルエンザの脅威」がマスメディアをにぎわせている。「大流行すれば、日本でも何十万人単位の死者が出る」という説は本当か。特効薬と宣伝されるタミフルに問題はないのか。本紙でコラム連載中のドクター林こと林敬次医師(医療問題研究会)とインフルエンザに詳しい山本英彦医師(同)に聞いた。(編集部の責任でまとめました)


誇張された脅威

◆読者からたくさん質問をい ただいています。「恐ろし い新型インフルエンザが大 流行する、というのは本当 ですか」「今からワクチン を打って間に合いますか」 「タミフルという薬が特効 薬と聞きましたが」等々。

「タミフル備蓄論はおかしい」林敬次医師
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林 「鳥インフルエンザが変異し、新型の恐ろしいインフルエンザが流行する」といった報道が世間を騒がせていますが、明らかに「誇張された脅威」と言えます。

山本 インフルエンザの大流行で多数の死者が出るのは衛生状態や栄養状態が悪い時代です。よく引き合いに出されるスペインかぜ大流行(1918年発生 / 全世界で2000万人が死亡したと言われる)の背景には、第一次世界大戦によって疲弊した社会状況がありました。新型インフルエンザの流行が、多数の死者を出した一次的な要因ではないのです。

 ですから、現代の日本で「新型インフルエンザで最大64万人が死亡」という厚生労働省の予測はありえない話です。インフルエンザワクチンや抗ウイルス薬の需要を増やすために、いたずらに不安を煽っているとしか思えません。

 そもそもインフルエンザに特効薬はありませんし、ワクチンで予防することもできないのです。

 なぜワクチンは効かないのか。まず、今年の流行株(ウイルスのタイプ)を予測すること自体が困難です。かりに的中したとしても、インフルエンザウイルスは継続的に変異し続ける性質がありますから、すぐにワクチンは効かなくなります。猛スピードで変化するウイルスにあわせてワクチンを製造することなど原理的に不可能です。

 インフルエンザワクチンの予防接種に流行を防ぐ効果がないことは、疫学調査で証明済みです。「前橋レポート」(注)がそれです。高齢者についても、「ワクチンの接種率が上がっても超過死亡(統計で割り出した季節ごとの平均的死者数を上回った部分)は減らなかった」という報告が最近米国で発表され、注目を集めています。

「インフルエンザワクチンに効果なし」山本英彦医師
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タミフルと副作用

◆では、いま話題のタミフル はどうですか。よく効く薬 なのですか。

山本 タミフルはウイルスの増殖をおさえる薬です。早い時期に増殖をとめれば、ウイルスが体内で広がらずにすむというわけです。研究調査では、平均で一日早く症状が収まるデータが出ています。

 しかしタミフルはインフルエンザの万能薬ではありません。型によっては効きませんし、ましてや新型インフルエンザに有効かどうかなんてわかりません。

 大体、効果があるといっても一日早く熱が下がる程度のものです。高熱が身体に重大な影響を及ぼすケース(心臓疾患など)以外は、副作用の危険をおかしてまで飲む薬ではありません。

◆副作用があるんですか。そ れはどのようなものですか。

林 タミフルの副作用としては、嘔吐や下痢などの胃腸症状がはっきりしています。それと、いま問題になっているのが意識障害や睡眠中の突然死との関連です。

 11月の日本小児感染症学会で「医薬ビジランスセンター」の浜六郎さんが次のような事例を報告されています。17歳の男子がタミフル服用の1時間半後に裸足で道路に飛び出し、トラックにはねられて死亡。14歳の男子がタミフル服用後マンションの9階から転落死した等々。大阪府下でも、1〜6歳の子ども6人が眠ったまま死亡した事例があります。いずれも脳が腫れており、4人がタミフルを飲んでいました。

 たしかに、タミフルが原因とみられる子どもの死亡率は、現在のところ100万人に1人、重症は16万人に1人と少数です。しかしタミフルの副作用については、まだ調査が進んでおらず、わからないことが多いのです。

 こういう薬を「インフルエンザ対策の切り札」のごとく宣伝し、国家備蓄に励むのは納得できません。今でも世界のタミフル使用量の8割を日本が占めるという異常な事態が起きています。まあ、タミフルの販売・製造業者やその大株主であるラムズフェルド米国防長官などは大儲けできて喜んでいるでしょうが。

「かぜ薬」は効かない

◆特効薬はないとすると、イ ンフルエンザにどう対処す ればいいのでしょうか。

山本 こうしたら必ず感染を防げるという予防策はありません。人混みを避ける、手洗いの励行、部屋の湿度を保つことぐらいでしょうか。

 かかってしまったら無理せず休むことです。水分を十分に補給し、休養してください。インフルエンザはかぜの一種です。普通は3〜4日もすれば自然に治るものなのです。熱は体がウイルスと闘っている証拠です。薬で下げる必要はありません。ウイルスがやっつけられれば、熱は下がってきます。

 親御さんの中には「小さい子どもが高熱を出すと脳症になる」と思い込んでいる人がいますが、鎮痛剤や解熱剤を飲ませてはいけません。逆に脳炎や脳症を引き起こす危険性があります。ひどく頭が痛くて眠れないという場合、比較的安全なアセトアミノフェンを飲むのはいいでしょう。

 インフルエンザで高熱が出るのは発症して最初の一日です。小さいお子さんがかかった場合、親が付き添ってあげましょう。またインフルエンザの熱はぶり返すことがあるので、「熱が下がったから保育所へ」ではなく、もう一日休ませるぐらいの余裕を持つことが大切です。

正しい知識が大切

林 タミフルをほしがる人がこれほど多いのは、病気で仕事を休むことすらはばかられる日本の労働環境・社会状況があるからでしょう。そちらのほうがよっぽど健康の脅威というものです。

 いま「他人に迷惑をかけないためにも予防接種」というムードがつくられています。職員に半ば強制的に予防接種を受けさせる医療・福祉職場もあります。こんなことがまかり通るなら、「インフルエンザの脅威」を利用し、個人の権利を不当に制限することも出てきます(たとえば、集会の禁止とか)。伝染病を利用した国民の管理統制は昔から国家の常套手段ですから。

 インフルエンザの流行をおさえる一番の方策は、公衆衛生の正しい情報を知らせることです。国民を怖がらせて、タミフルを溜め込んだりすることではありません。

◆ありがとうございました。

*前橋レポート

 インフルエンザワクチンの学童集団接種をしていない前橋市と、集団接種をしている周辺地域におけるインフルエンザの流行状況を、1980年から6年間にわたって比較した大規模な疫学調査のこと。接種地域と非接種地域で、インフルエンザの罹患率・超過死亡などに違いは認められなかった。

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