ロゴ:国際法を市民の手に 前田朗 2006年01月20日発行919号

『イラク世界民衆法廷(2)』

 民衆法廷の準備は各地で進められていたが、2003年10月29日、イスタンブールで開催された会議において「イラク世界民衆法廷諸原則に関する声明・イスタンブール綱領文書」がまとめられた。イラク世界民衆法廷(WTI)の名称もここで固まった。綱領は「計画の起源」を次のように整理している(以下、訳は日南田成志による)。

 「イラク侵略戦争に対して国際民衆法廷を組織しようという考えが、ほぼ時を同じくして世界の数箇所から起こった。それは2003年に開かれたベルリン、ジャカルタ、ジュネーヴ、パリ、そしてカンクンにおける反戦会議で議論され原則的に支持された。『ジャカルタ平和合意』は、2003年5月25日、国際戦争犯罪民衆法廷の実現に取り組むと宣言した。2003年6月26−27日にブリュッセルのバートランド・ラッセル平和財団によって組織されたネットワーク会議でも、この提案が議論され、広範な支持を得た。」

 「ブリュッセルの作業グループの会合で、イラク民衆と人類に対して犯された犯罪を調査し確定する国際民衆法廷を開催する考えと可能性を議論した。法廷は、この戦争の異なる側面及びその背後にある戦略にそれぞれ焦点をあてる数回の世界各地での公聴会で構成されることになった。トルコの法廷グループが事務局及び情報整理の任を託され、ブリュッセル、広島、ニューヨーク、ロンドンその他の都市のグループと密接な連携をとることとなった。この国際調整委員会が、2003年10月27−29日、イスタンブールで会議を開催し、本計画の概念、形態、目的を決定した。」

 民衆法廷の正当性について、綱領は「米国及びその同盟国の行為を裁く法廷あるいは当局は存在しない。公式の当局が役に立たないならば、普遍的な道徳と人権に由来する権威が世界を代弁することができる」として、次の点を指摘している。

 ・ 重大な国際法違反を犯し、世界平和の絶え間ない脅威となっている者の責任を問う公式の国際機関がないこと

 ・ この侵略戦争に反対を表明した地球規模の反戦運動の一部であること

 ・ イラク民衆が占領に抵抗していること

 ・ 侵略戦争、戦争犯罪、人道に対する罪、その他の国際法違反に対して行動を起こす、すべての良心的な民衆にとっても責務

 ・ 平和的共存のシステムを構築し、将来的な侵略と国連憲章違反を防止しようとする過去における闘い

 ・ この戦争の声なき犠牲者に声を与え、全世界の社会正義と平和を求める運動によって表現された市民社会の憂慮を表明すること

 ・ 国際法の諸原則を前面に掲げる意志

 従って、民衆法廷の任務は次の3点にまとめられた。

 第1に、米国政府がイラク戦争の開戦で犯した犯罪を調査することである。この戦争及びその明確な国際法違反を非難する世界の運動にもかかわらず、米国政府はその計画的戦争戦略を世界に強いた。

 第2に、侵略中の戦争犯罪、占領法・人道法に対する犯罪、ジェノサイドを含む人道に対する罪についての申し立てを調査することである。

 第3に、「新たな帝国世界秩序」を調査し暴露することである。民衆法廷は、したがって、「先制攻撃論」「予防戦争」というドクトリンのより幅広い文脈とそれらのドクトリンのあらゆる帰結(「恩恵的覇権」「全領域支配」「同時多発劇場戦争」等)を検討するであろう。

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