2006年01月27日発行920号
解剖自民新憲法案  4

【国会の権能弱め首相権限を強化 「スピード命」の暴走政治】

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第54条 第69条の場合(注・衆院での内閣不信任)その他の場合の衆議院の解散は、内閣総理大臣が決定する。

第56条第2項 両議員の議決は、各々その総議員の3分の1以上の出席がなければすることができない。

第63条第2項 内閣総理大臣その他の国務大臣は、答弁又は説明のため議院から出席を求められたときは、職務の遂行上やむを得ない事情がある場合を除き、出席しなければならない。(自民草案)

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 自民草案は、国会の権能を低下させ、内閣総理大臣の権限を強化することを目指しています。「時代の変化に即応してスピーディーに政治判断を実行に移せるシステムとする」(自民憲法改正プロジェクトチーム『論点整理』)ためです。

解散権ひけらかし議会を脅迫

 国会は「国権の最高機関」と位置づけられています。現行憲法は「国政は国民の厳粛な信託によるものであり、その権力は国民の代表者が行使する」(前文)と国民主権の原理を定めています。そして、行政・立法・司法の3権のうち、主権者が自らの代表者を直接選ぶことができるのは国会だけです。衆議院の解散は「全国民を代表する選挙された議員」(第43条)の地位を任期切れ以前に剥奪し、国会の機能を停止させる行為ですから、当然制限があります。

 では、どのようなときに解散できるのでしょう。

 現行憲法第69条は、衆議院で内閣が不信任とされたときの内閣の選択肢として「10日以内の解散か総辞職」と定めているのみです。この「内閣不信任」以外の場合に解散を認める立場でも、解散が許されるのは国民と国会の意志が乖離し選挙によって民意を問う必要があるときとされています。しかも現行では内閣に解散決定権が与えられているので、閣議で国務大臣全員の同意が必要です。

 昨年の「郵政解散」の際、各種世論調査では「民営化に反対」「成立を急ぐ必要がない」といった意見が軒並み過半数を占めました。それでも小泉は「参議院の否決を不信任と受け止める」と繰り返し強調し、「国民は民営化を支持している」と強弁。あたかも解散が合憲であるかのように偽装しようと腐心しました。そのうえ、閣議で解散反対に回った島村農水相を罷免する手続きも必要となりました。

 草案は、内閣不信任以外に「その他の場合」を加えることでに衆議院の解散要件を事実上無制限にしようとしています。加えて、解散決定権者を内閣から内閣総理大臣に変更することで、より迅速に総理大臣の政策を押し通すことを可能としています。

審議の空洞化で国会を「追認機関」に

 現行憲法第56条第1項は、「両議院は、各々その3分の1以上の出席がなければ議事を開き議決することはできない」としています。主権者の意志を国政に反映させるべき国会の議事・議決が「3分の1の出席」で可能というのは、本来あまりに低すぎる基準です。素案は、その低すぎるハードルさえ取り払いました。「3分の1」要件を議決に限定したのです。条文上議事は、1人でも議員がいれば委員会であれ本会議であれ開催できることになります。

 あわせて、「職務の遂行上やむを得ない事情」を盾に、大臣の国会への出席拒否を可能としています。

 現行憲法は内閣による国会への議案提出は、予算案しか明文化していません。つまり、「唯一の立法機関」(第41条)が作った法律に従って、内閣が日常の行政を行うという図式です。

 しかし、現実に審議されている法案の多くは、内閣提案です。憲法に明文規定がないのに日常的に許されているのは、「唯一の立法機関」である国会での十分な審議によるチェックと議決による立法府としての意志決定を前提としているからです。

 その国会の権能を開催要件の緩和と大臣出席義務免除でないがしろにしようとしているのです。

国民主権を踏みにじる

 自民党が新憲法制定で狙っているのは、「国益」=グローバル資本の利益確保のために、国民を根こそぎ動員する国家改造です。

 この国家改造のためには、増税や社会保障の切り捨て、国民の自由と権利の抑圧を避けては通れません。世論の反発を招くことが予想されるこれらの政策を押し通すために、解散権を振りかざして議会を沈黙させる。野党の審議拒否にあったり、審議過程で反対世論が沸騰することを避け、「国益」追求のためのタイミングを逃さないように審議のスピードアップをはかる。「内閣総理大臣のリーダーシップ」の名の下に、国民主権の一形態である国会による行政の民主的コントロールの仕組みそのものを破壊しようとしているのです。

 草案が狙っているのは、国民の代表である議会の上に内閣総理大臣を置くという国民主権の空洞化であり、強権政治の正当化です。

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