2006年01月27日発行920号

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【要求の実現へ市役所デモ / 団結と国際連帯は社会を変える】


 2006年の年明け早々、占領下のイラクでは、生活の改善を求める労働者・民衆のデモ隊に占領軍・イラク軍が発砲、多数の死傷者を出した。集会・デモの自由すらない。「民主化へのプロセス」とマスコミが演出する「議会選挙・新政府」が占領の正当化でしかないことは明白だ。イラク北部の都市で噴出する民衆の闘いは、国際的な連帯を求めている。占領軍を送る日本での反占領の闘いが問われている。(豊田 護)


民衆の力

 イラン国境まで約10キロ。人口7万人ほどの街カラドザ。PUK(クルド愛国同盟)が支配するスレイマニヤ州の北端に位置する。

 昨年10月の初め、市民が共闘グループを作った。市民グループの設立には市当局の許可が必要とされているが、許可は出なかった。活動を始めると当局からの妨害が入った。

市役所へのデモに集まった民衆(05年6月21日・ラーニア))
写真:市役所へのデモに集まった民衆(05年6月21日・ラーニア))

 占領下で独裁を強めるPUKは、市民の自発的なデモや要求を警察力を使って弾圧してきた。ビラや要求書を取り上げ、「この活動を続けるなら、他の街に飛ばしてやる」と脅した。活動家を拘束したこともあった。

 共同代表の一人、労働者共産党員のカドルが言った。「電気やガソリンを保障させ、人々の生活を変えたい。根本的な社会変革をめざしている」。政教分離の立場をとる別の団体からも代表が選ばれている。

 「10月末に、ガソリンの支給を要求して市役所にデモを行った。150人が参加した。市当局はこれだけの人数のデモ隊に驚いていた」

カラドサの街
写真:カラドサの街

 対応した市長は「代表一人に絞れ」と交渉から逃げようとした。デモ隊は「われわれみんなの問題だ。一人ではだめだ」と応酬。市役所に居座って、集団交渉に応じさせた。それは1時間に及んだ。結局、各家庭に130リットルのガソリン支給をかちとった。

 「参加者は、最初あきらめていた。しかし市長と談判し、勝利したことで元気になった。団結すればいい結果につながる。次回のデモにも出ると言う人が増えている」とカドルは言った。すでに灯油の支給も約束させた。電気・水など要求は尽きない。占領による独裁・腐敗の進行をとめる民衆の力を実感する。

弾圧をはねのけて

 カラドザから西へ15キロほどのところにラーニアの街がある。人口は10万に満たない。この街でも、民衆の力が社会を変えようとしている。昨年6月21日、5000人の市民が市役所にデモを行った。

 「1991年の反バース党・反サダム蜂起以来、初めてのことだ。この街を支配するPUKにとっても、こんな市民デモが起こるなんて予想もしていなかっただろう」

 ラーニアでの闘いの中心を担うアザド・アフマドはそう言った。

 デモを準備した一人オマルが成果を強調した。「このデモですべてが変わった。ガソリンが手に入るようになった。電気が来る時間が長くなった。道路も補修が始まった」

 だが、市当局は約束の一部を破り、報復に出る。運動の中心メンバーだった教員ハリル・アリ、デモに参加した警官2人を強制配転した。当局は、公務員のデモ参加が増えるのを恐れた。

対市交渉をふりかえるカドルさん(カラドサ)
写真:対市交渉をふりかえるカドルさん(カラドサ)

 「地方政府の行為を糾弾し、再度デモを組織した。セミナーを2回開いた。『配転は民衆への挑戦だ、配転を撤回させねばならない、民衆の責任を示す必要がある』と呼びかけた」

 アザドは語った。当局の弾圧を跳ね返すために、署名を集めた。3千筆以上集まった。首相や教育省、PUKに押しかけ、配転の撤回を要求した。3人は元の職場に戻った。

 「われわれは非常に強力な何かを得た。デモに参加する目的が明確になった。人々の目に見える成果があったからだ。ラーニアだけではない。カラール、スレイマニヤなど市民の動きが広がっている」

 クルディスタン全体を対象にした組織作りが進んでいる。

 「人々の要求をまとめた綱領を作り、さまざまな都市で政府当局に提出する。応じなければすべての都市でデモを組織する。これをやりたい」

 アザドの顔が紅潮してくるのがわかる。

世界につながる

 イラクの北部、イラン国境近くの小さな都市で、民衆が社会を変えようとしている。

自らの要求を掲げ、実現していく過程を経験している。手にした成果は、わずかなものかもしれない。しかし、何よりも民衆の力を信じることができることは、きわめて大きな成果だろう。「団結すれば勝てる」。日本の運動が忘れかけた言葉ではないだろうか。イラクの人々は心から実感している。

 昨年8月日本を訪れたアザドが語る。

 「われわれも孤立していると考えることもある。だが、われわれの闘いが日本に知らされれば、われわれ自身ももっと勇気がわいてくる。昨年、労働者共産党の代表が日本を訪れ、交流したことが党の活動を前進させる上でいい励ましとなった。この地域のメンバーの活動や考えを変えた」

 イラクでの闘いと日本の闘いをつなぐものは何だろうか。それは、当たり前の生活を求める民衆の願いではないか。グローバル資本による民衆収奪・生活破壊に対する共同した闘いなのだと思う。

 いま日本はイラクを侵略する国だ。だが日本政府は、攻められたらどうすると民衆を脅し、わが身のことに関心を集中させている。新たな治安維持法が画策されている。イラクから見れば日本がよくわかる。占領と闘うイラク民衆の力を共有したい。

 労働者共産党員のアブドラは、メーデーなどの大衆集会で世界共通の革命歌『インターナショナル』を歌っている。クルド語で披露してくれた。歌い終わって言った。「われわれが世界中で団結すれば、資本主義など1分ももたない」        (続く)

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