ロゴ:怒りから建設へロゴ 2006年02月03日発行921号

第8回『これがIFCモデル「連帯地区」(キルクーク) / 「ここには安全と社会サービスがある」』


地図

 イラク占領軍の蛮行は、「議会選挙」後もなんら変わりなく、各都市の破壊・住民虐殺が続いている。武装勢力の爆弾攻撃も市民生活の場で繰り返されている。イラク自由会議(IFC)は、武力によらない反占領の闘い、政教分離の社会の実現めざし、各地で支持を拡大している。イラク北部の都市キルクークにあるアル・タザムン(連帯)地区は、IFCの目指す社会のモデルとも言える。闘いの成果を紹介する。(豊田 護)


戦闘行為を排除

アル・タザムン地区の地区評議会議長のアジズさん
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 「この1年、多くのことを成し遂げた。アル・タザムン地区の民衆の要求から出発して、さまざまな活動に取り組んできた」

 アル・タザムン地区の住民組織、地区評議会で議長をつとめるアジズはゆっくりと1年間の成果を振り返った。

 米軍・市当局立会いの下、住民の直接選挙で地区の評議員を選出したのは、2004年5月だった。電気・水・灯油など社会サービスの欠如に加え、キルクークでは特に民族間の対立・紛争が煽られ、治安の悪化が著しかった。これまで親しく暮らしてきた地域に、ありもしない「憎悪」を持ち込ませたくない。そんな思いが住民の自主的な警備チームを作り、地区評議会結成へと進んだ。

 「人々の力を結集し、州知事に圧力をかけ、社会サービスの改善・供給をさせてきた。要求が実現したことで、評議会への信頼はいっそう高まり、地域と評議会が一体となった。この地区にIFCの支部をつくることがより容易になった」

 1400世帯が暮らす地域を、わずか5人の評議員で運営する。すべてがボランティアで支えられていた。

 「治安の問題では、住民が24時間検問所に立ち、地域を守っている。おかげで、米軍もイラク警察もこの地域には手出しができなくなった。彼らも、われわれ自身の手で治安が確保されているとわかっているからだ。IFCが存在することで、PUK(クルド愛国同盟)やKDP(クルド民主党)が介入したり、脅したり、民族間の紛争を煽ったりすることができなくなった」

 戦闘行為・戦闘手段を地域から排除することが住民の安全を守る唯一の方法であることがわかる。

対等平等の関係

 紛争の火種を外から持ち込ませないだけでなく、地域の中で常に、対等平等の意識を醸成する取り組みも進めてきた。中でも青年委員会の役割は大きかった。

 「青年委員会は人々の相互理解を深める手助けになった。この地区にはアラブ人、クルド人、トルクメン人、キリスト教徒とさまざまな人が住んでいるが、委員会では統一したサッカーチームを大会に送り出したり、セミナーを開いたりしている。教育委員会にデモをし、中学校と高校の分離を勝ち取り、青年センターの建設も約束させた。人々の間に人間的な意識の向上をはかり、民族間紛争を解決している」

建設中の診療所(キルクーク、アル・タザムン地区 / 10月31日)
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 日常的な対話と共同した行動、相互理解を深める重要な活動だ。地域での信頼は厚い。

 「地域の中に子どもシェルターを開設した。イラク女性自由協会(OWFI)の事務所もある。他の政党・団体の事務所は、市の中心部にはできても、地域につくることはできない。地域住民から支持されていないからだ」

 IFCに対する信頼の厚さを証明するもう一つの事例として、昨年1月の議会選挙、10月の憲法草案に対する国民投票の実態がある。

 「人口調査によれば、この地域の有権者数は9000人。1月の議会選挙で投票したのは2000人に過ぎない。この地域が、ジャファリ=タラバニ政権ではなく、われわれの影響下にあることの証明だ。憲法国民投票でも、有権者の多くは投票に行かなかった」

人口増加が証明

 地域では、学校や診療所の建設、道路の補修が始まっていた。州当局との交渉の結果、勝ち取ったものだ。

 「最初、州知事の対応はまったくいい加減だった。口約束だけで、一切実行しなかった。『要求に応えないのなら、抗議デモをするぞ』と伝えたら、副知事・州医療局長・警察署長・市の担当課長が、地域に実態調査に来た」

 アジズは、煮え切らない州当局を動かすために、住民集会を開き、署名を集め、正式交渉団としての体制を固めていた。行政の現地調査は、住民が本当にアジズを代表に選んだかどうか詮索するものであった。

 「住民は『われわれの代表だ。早く要求に応えろ』と詰め寄った。当局は『わかった。時間をくれ』と言って帰った。それから1か月後、建設工事が始まった」

 今、地域の住民にIFCへの加入を進めている。これまでの信頼をもとに、多くの住民が加入しているという。

 「IFCは民族紛争を解決し、人々を人間というアイデンティティ−によって定義づけていることが歓迎されている。ここには、人々が求める治安と社会サービスがある。ここに住みたいとやって来る人も多い。人口は増えている」

 アジズは、アル・タザムン地区をIFCがめざす社会のモデルにしたいと語った。

 「われわれには、精神的・政治的な支援が必要だ。皆さんの支援なしにはわれわれの希望は実現できない」 

 日本における平和で民主的な地域づくりの闘いにとっても、学ぶべき点は多い。国際連帯とは、共同行動であることを実感する。  (続く)

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