2006年02月10日発行922号
解剖自民新憲法案 6

【第95条(住民投票)削除 国策への抵抗権奪う】

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現行憲法第95条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。(自民案はこれを削除)

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地方自治の破壊を狙う

 現憲法は、特定の自治体のみに適用される法律については、その自治体の住民投票で合意されなければ作ることができないことになっています。

 これは、地方自治を保障する上で重要なことです。地方自治とは、「地域のことは地域住民で決める」(住民自治)と「国から独立した自治体が地方行政を運営する」(団体自治)という2つを指しているとされています。現行憲法は、この2つを「地方自治の本旨」と呼び、第92条で保障しています。

 法律は、国民が直接選挙して選んだ議員が構成する「国権の最高機関」である国会が制定し、基本的には全国一律に機能します。特定の地域のみに適用される法律というのは、法律としては例外的なものです。例外なのですから、その法律が適用される地域に住む主権者=地域住民の意向を無視することは、たとえ「国権の最高機関」とされる国会であっても許されません。現行憲法第95条は、「地域のことは地域住民が決める」という地方自治の原則に基づく、国への住民の抵抗の手段として存在するのです。

 自民草案は、第95条を削除することにより、地方の意思を蹂躙し、国が国政全般をコントロールできる手段を確保しようとしたのです。

法改悪で不法占拠を「合法」化

 これまで、第95条により住民投票に付された法律は15本あります。いずれも、1949年から50年代の戦後復興期の法律です。これらは、適用される地域の振興のために財政的な優遇措置を定めたものとされており、すべて賛成多数で成立しています。

 問題は、第95条の規定があるにもかかわらず、地域住民の意に反する立法が住民投票をへることなく強行されてきたことです。最悪のものが97年の「駐留軍用地特別措置法」(以下、「特措法」)の改悪です。

 在日米軍基地の用地は、日米地位協定により日本政府から米国政府に提供されています。本土の米軍用地のほとんどは国有・公有地ですが、在日米軍基地の75%が存在する沖縄県では、その大半が民有地です。所有者の中に「戦争のために土地は貸さない」と土地の賃貸借契約を拒否する反戦地主が多数存在しており、その土地は旧「特措法」により強制使用されてきました。

 96年3月から97年5月にかけて、強制使用手続きが滞り次つぎと期限切れを迎え、国は、最大で1年数か月に及び個人の土地を不法占拠するという状態に陥りました。

 政府は「特措法」を改悪する法律を国会に提案し、強行可決。不法占拠状態の土地へもさかのぼって適用し、不法状態を「合法化」してしまったのです。実際には沖縄だけが対象だったにもかかわらず、政府は、”同法は全国に適用される”と居直り、住民投票は実施されませんでした。

地方の意向をねじ伏せる

 このように現行憲法下でも、地域住民に不利に働き、住民に否定されるような法律については住民投票を実施しないのが実態です。第95条が削除された自民憲法案の下では、国の政策は地方の意向に関わりなく強行されることとなってしまいます。地方自治の否定です。

 沖縄県の普天間飛行場の代替施設の名で、名護市辺野古沖への新基地建設が狙われています。反対運動の力で埋め立てのボーリング調査すらできていませんが、この事態を打開しようと、政府は知事に与えられている埋め立て許可の権限を国に移すための立法措置を検討しています。また、米軍と自衛隊の再編強化にともない、基地を抱える各自治体の首長はこぞって批判・反対を表明しています。

 このような事態に対して新たな立法措置を強行するたびに住民投票をしていては、国益=グローバル資本の権益確保はままなりません。自民草案の第95条削除は、地域住民=主権者の手から国策への抵抗権を奪い、国益のための政策決定を自由に行うことを狙っているのです。

住民自治の確立が急務

 自治権を否定する第95条削除の影響は、基地問題にとどまりません。今、「地域振興」の名の下にさまざまな「特区」を設けて、規制緩和をしようという動きが盛んです。その中に、公害規制や中小事業者を保護するための大資本への営業規制の緩和が盛り込まれない保障はありません。

 自民新憲法案の地方自治否定と対決する力は、全国で展開されている無防備地域言条例制定運動など、住民自治を確立する運動です。そして、沖縄を狙い撃ちにした公有水面埋め立て法改悪を許さず、たとえ法案が提出されても、憲法95条の住民投票を実施させノーを突きつけることが今、問われています。

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