2006年02月17日発行923号
解剖自民新憲法案 7

【第83条2項 「健全」財政尊重義務―国民負担強要する民営化に拍車】

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第83条2項 財政の健全性の確保は常に配慮されなければならない。(自民草案)

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 自民草案は、「財政の基本原則」として、「健全財政主義」を掲げました。憲法にあえて記すということは、時々の政権の姿勢がどうであれ、緊縮財政を半永久的に義務付けるということです。つまり、中央政府の役割を軍事・治安・「国益」確保に限定した「小さな政府」とすることを国家の基本原理にするものです。

「国益」のために予算確保

 国と地方を合わせた長期債務=借金の残高は、06年度末には775兆円に達するとされています(1/20 首相施政方針演説)。06年度の政府予算案では、国の借金残高は06年度末には541兆円にのぼり、その利払いと返済に充てられる国債費は、18兆7千億円(歳出全体の32%)となっています。小泉政権は、この「財政危機」を逆手にとって、「小さな政府」=グローバル資本にのみ奉仕する政府への改造をもくろんでいます。

 小泉改革の重要な柱は、「郵政民営化」を象徴とする「民営化」「独立行政法人化」による人件費・維持経費削減と受益者負担増です。そして、最高税率の引き下げなど大企業・富裕層への減税をしながら、消費税を大幅にアップする国民負担増です。

 自民草案は、このシリーズで見てきたように、「国益」=グローバル資本の権益を第一の価値とするものです。したがって、「健全財政主義」によって確保される歳出とは「国益」に直結する費用であり、削減されるものは、グローバル資本にとって「無駄な社会的コスト」である社会保障などの国民生活関連予算です。これは、さまざまな公共サービスの廃止・民営化を急速におし進めます。

 国民からの反発が予想されるこれらの政策を強行するために、あれこれ説明する必要はなくなります。「憲法の財政健全化義務」を持ち出せば済むからです。

住民自治を破壊

 現在小泉政権が進めている地方財政改革は、全国一律であった住民サービスの権限を地方自治体に委譲するとともに、補助金を削減し、国民生活への中央政府の責任を放棄するものです。

 草案は地方自治について、「自立的に実施すること」(第91条の2)、「住民は負担を公正に分任する義務を負う」(同条2項)、「地方税のほか、自主的に使途を定めることができる財産をもってその使途にあてる」(第94条の2)としています。

 「独立」ではなく「自立」ということは、「口出し・手出しはするが、カネは出さない」ということです。政府からカネが出ないのなら、自治体の政策に関する経費は住民の「公正に分任する義務」による地方税増・自己負担増でまかなわざるを得ません。そして、「自主的に使途を定めることができる財産」=自治体財産の民間への切り売りを強いられます。

 財政基盤の弱い自治体では、高額な自己負担を覚悟するか、行政サービスの切り捨てを受け入れるかの選択が住民に求められ、負担できない貧困層は生存権すら奪われるのです。

 「健全財政主義」は、この福祉・社会保障切り捨てに拍車をかけます。草案が健全財政を「地方自治について準用する」(第94条の2第3項)としているからです。

 政府は、自民草案の先取りを狙っています。竹中総務大臣の私的懇談会が「自治体破綻(はたん)法」の導入を検討しているのです。これは、財政難に陥った自治体に対して、首長の経営責任を追及するとともに、国の管理の下に資産・負債を整理するというものです。自民草案が狙う「カネは出さず、手出しはする」という地方自治破壊の制度です。

 首長の経営責任が追及されるわけですから、「破綻処理」に至るまでに、行政サービスは目いっぱい切り捨てられています。その上に、国が地域住民の資産である自治体財産を勝手に民間に売り払うというのです。文字通り「身ぐるみはがれた」地域住民は、ろくな行政サービスも受けられず、ただただ政府に所得税や消費税を献上させられるだけの存在とされてしまいます。

行政サービスを解体

 「健全財政主義」が貫かれた自治体行政がどうなるかは、大阪市行財政改革計画案が示しています。

 計画案は、事務事業については、基本的には廃止を検討し、廃止できないものは民間委託・民営化です。その結果、保育所、青少年・勤労者施設、老人福祉施設、学校給食調理の統廃合・民営化・人材派遣がスケジュールに上っており、選挙事務への人材派遣業者導入まで検討されています。また、生活保護世帯・高齢者への上下水道料金減免措置、重度障害者給付金・難病見舞金も廃止されようとしています。

 自民草案の行き着く先は、公的サービスの民営化=私物化と社会的弱者の切り捨てに他なりません。

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