ロゴ:怒りから建設へロゴ 2006年02月17日発行923号

『差別・迫害と闘うOWFI(イラク女性自由協会) / 「政府は女性を殺す者を支持している』


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 イラク占領軍は、1月末、拘束していた女性を含む市民約400人を釈放した。しかし、いまだに理由もなくとらわれ、拷問を受けている市民は数知れない。軍事占領はイラク社会に暴力を蔓延させ、社会秩序を破壊した。特に、子どもや女性に対する人権侵害は深刻な状況にある。イラク自由会議(IFC)は、女性シェルターをはじめ女性の生命と権利をまもる女性自由協会(OWFI)の闘いを支援している。女性の置かれた状況とOWFIの活動を紹介する。(豊田 護)


相次ぐ女性虐待

 昨年7月のある暑い日、アラアの家に米軍がやってきた。父親がテロリストだと言いがかりをつけ、家族全員を拘束した。1か月後、両親は釈放されたが、アラアは獄中に取り残された。それからさらに1か月、アラアは釈放された。だが、家族からは暖かい歓迎や同情の言葉はなかった。ただ、レイプされたかどうか、詰問された。

OWFIキルクーク支部長のフリアル・アクバルさん
写真:OWFIキルクーク支部長のフリアル・アクバルさん

 アラアはノーと答えた。だが両親は信じず、アラアを医者に連れて行き処女かどうかをはっきりさせようとした。アラアは後になって、レイプされた事実を告げた。父親は怒りにまかせ、銃を手に取りアラアを射殺した。9月17日、アラア25歳の悲劇的人生は終わった―。

 OWFIキルクーク支部長フリアル・アクバルの手もとには、このような迫害を受けた女性のレポートがいくつも集まっている。被害者であるはずの女性が、さらなる虐待、被害にあっていく。紹介された事例は、聞くにたえない。

イスラム法で正当化

 こんなケースもある。

 未婚のまま35歳になったザヒヤ。彼女は、社会的習慣である見合い結婚の考え方を受け入れなかったために、家族から虐待を受け、家に閉じ込められていた。家族はいとことの結婚を強要したが、ザヒヤは結婚式の当日逃げ出した。だが、逃げる途中で兄弟に見つかり、容赦なく殴られた上、車に縛られ、ひきずられて帰った。体中の骨が折れて、入院生活を送っている。古い時代の話ではない。2005年9月13日、キルクークのリヤド地区で起こったことだ。

 「こうした迫害・虐待の事例は単に社会的要因だけによるものではありません。政治的なものです。だから、そうした女性たちには政治的な支援が必要なのです」

 フリアルの言葉には、怒りと悲しみがにじんでいた。

 「ある少女が少年と性的関係を持ち、妊娠しました。家族に知られ、二人はスレイマニヤに逃げます。途中で家族に捕まり、二人とも殺されてしまいました。殺した男は投獄されたが、刑はわずか6か月に過ぎません。彼女の行為の方がイスラムの文化に反し、殺害する方が合法的とされてしまう。あらゆる団体がこうした馬鹿げた事実を見過ごしています」

 昨年10月に行われた「新憲法」に対する国民投票に対しOWFIは誰よりも熱心に反対運動に取り組んできた。「新憲法」は女性の権利、社会的立場を半世紀も後戻りさせる内容だったからだ。

「イスラムの文化」の名の下、女性への迫害が正当化されている
写真:「イスラムの文化」の名の下、女性への迫害が正当化されている

 「キルクーク、スレイマニヤのすべての女性団体に呼びかけ、憲法反対の声を一つにしようと組織しました。女性の権利を学ぶ講座もやりました。今の政府は、女性を殺す者たちを支持しています。若いカップルを殺した者にわずか6か月の懲役刑しか与えられないことを考えてほしい」

 「名誉殺人」という言葉がある。家族や一族の名誉のための殺人は許されるという。宗教や文化、社会的慣習……。どんな言いわけをしたとしても「女性の殺害」が合法化されていいはずがない。

 「OWFIに対し『この社会はイスラム教を信じているのだから、人々にリベラルであれと強要してはならない』と非難する者がいます。でも考えてほしい。イスラム法の下では人々に選択権はないのです。好き嫌いにかかわらず親の決めた相手と結婚しなければなりません。黙って従えと言うのでしょうか」

 フリアルに寄せられる事例は月に10件にものぼる。占領下で、ますます増えているという。

占領が歪みを拡大

 地元メディアの「アル・バスラネット」は、1月8日、昨年1年間で10歳未満の少女に対する米軍兵士のレイプ事件は71件に達していると報じた。

 占領軍兵士が直接犯罪を引き起こすだけでなく、暴力を肯定する軍隊の存在自体が、明らかに理性やモラルを破壊していることを思い知らされる。占領は社会の持つ歪みを一層拡大していくものだ。

 占領軍の直接の犯罪ですら、欧米や日本の大手メディアが報じることはない。それにも増して、女性に対する虐待・差別の構造を「イスラム社会の文化」であるかのように容認し、「新憲法」を民主化だとする報道を垂れ流している。占領下で、いったい何が起きているのか。子どもや女性たちの身の上にどんな迫害が加えられているのか。占領国日本にいる私たちが知らないではすまされない。

 親・兄弟からの虐待を受ける女性たちがいる。虐待に耐え切れず、自らを焼き尽くし死を選んでいく者も絶えない。

 OWFIはいま新たなプロジェクトを準備している。「イラクの内外を結んで、さまざまな組織の力で、カウンセラーや弁護士を必要とする女性たちを支援しようというものです。法廷での闘いを支援する無料法律相談サービスです」。フリアルは身を乗り出して語り始めた。(続く)

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