2006年02月24日発行924号
解剖自民新憲法案 最終回 

【第96条 改憲提案の要件引き下げ / 改憲反復で全面国家改造 / 権益めざし国家総動員】

 国民主権・基本的人権の尊重・戦争放棄・地方自治など日本国憲法の諸原理を掘り崩そうとする自民党新憲法草案ですら、あくなき権益追求をめざすグローバル資本にとっては、満足できるものではありません。今後も常にその時々の必要性に見合った国家改造を望んでいるのです。そのために自民新憲法草案は、恒常的な「改憲」を狙っています。

自衛隊撤退こそ「9条」を実現する一歩
写真:自衛隊撤退を訴えるパレード

過半数の賛成で提案

・・・・・・・・・・・・・

第96条 この憲法の改正は、衆議院または参議院の議員の発議に基づき、各議院の総議員の過半数の賛成で国会が議決し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票において、その過半数の賛成を必要とする。(自民草案)

・・・・・・・・・・・・・

 自民新憲法草案は、憲法の改正提案要件を引き下げました。

 現行憲法は、衆参各院の総議員の3分の2の賛成で国会が国民に改正を提案できることとなっています。草案では各議員の過半数です。

「護憲に風穴」ねらう

 先の総選挙で自民党が圧勝したのは、小泉のデマゴギーと小選挙区のからくりによるものであり、「二匹目のドジョウ」はそうそういるものではありません。両議院の3分の2の議席確保は容易ではありません。しかし、過半数なら連立政権を想定すれば与党だけでの提案も可能です。改正要件の緩和は「まず、9条2項と96条の改正を実現すれば、風穴を開けることができる」(起草委員会事務局長舛添要一)とする、彼らの最低限の獲得目標なのです。

 自民党としても、改憲をめぐっての政党間の駆け引きや世論・反対運動など越えなければならないハードルはまだまだあります。その間にどれだけ「譲歩」や「修正」をさせられるのかという可能性も抱えているでしょう。

 そのことを織り込んだ上で、いつかは草案どおりの内容を実現する、あるいは草案の内容をもっと進めることを担保するために、96条の変更をたくらんでいます。

現憲法の実現こそ反撃

 小泉自民党の「構造改革」路線がめざす「自由かつ公正で活力ある社会」は、人権を踏みにじる、競争原理のみが支配する社会です。

 それは、既に進行している現実です。

 労働者は解雇の不安に怯えつつ、無権利状態のまま過労死するまで追いたてられ、競争に耐えれなければ、ホームレスはては自殺にまでおいやられます。

 規制緩和・民営化の推進で、行政サービスは切り縮められ、JR尼崎事故や耐震偽造・BSEに見られるように、国民生活の安全・安心は切り捨てられています。

 高齢者は社会保障の枠外に放置され、若年層は社会保険・年金さえ手にできません。

 子どもは、国家に対して均質な愛国心を求められる一方、日常では「個性」「自分らしさ」を求められ競争に追い立てられています。脱落した子どもは「限りない非才・無才はせめて実直な精神だけ養っておればよい」(教育課程審議会会長[当時]三浦朱門)というわけです。

 不良債権処理では、大資本だけが肥え太り、中小零細事業者は淘汰されました。

「9条」だけでは闘えない

 こうして搾り出された日本社会の「活力」は、すべて「国益」=グローバル資本が国際競争に勝ち抜き権益を確保することに振り向けられています。

 この理不尽を国民に永続的に押し付けるのが自民新憲法草案です。

 国民主権・基本的人権・平和主義を普遍の価値とする現憲法の下で人権や平和が自然に受け入れられてきました。草案は、「国益」を憲法上の至上の価値とすることで、理不尽を理不尽と言えない日本社会に改造しようとしているのです。

 「自衛軍」を保持し交戦権を認め、靖国神社を戦争動員装置として再び機能させるのは何のためか。民営化と競争社会を推し進めることで人権をないがしろにし国民生活を切り縮めるのは何のためか。すべては、グローバル資本の利益獲得に向け国家を構成するすべての資源(国民・企業活動・行政活動など)を総動員するためです。

 だからこそ地域のすみずみからあらゆる人々を結んだ運動で反撃することが可能であり、そうしなければ闘い抜くことはできません。「9条」だけに焦点を当てることは、運動の幅を自ら狭めることとなるのです。

 イラクを占領する自衛隊を撤退させ、住民主権を行使し地域から戦争協力を拒否する「無防備地域宣言運動」を強める。首切り・失業・労働者の権利破壊と闘い、社会保障切り捨て・公共サービスの民営化を許さず、「日の丸・君が代」強要と対決する。そういった現憲法を実現するひとつひとつの運動こそが求められているのです。

尊重義務踏みにじる

 今国会では、民主党も自公とともに「憲法改正国民投票法」の共同提案を画策するなど、改憲に突き進もうとしています。

 民主党の立場は自民党と大差ありません。昨年10月には、首相権限強化や武力行使容認の「憲法提言」を公表。前原代表は、集団的自衛権の行使を容認し、日米同盟強化を打ち出しています。内政においては、国家・地方公務員の半減など小泉構造改革に輪をかけた「究極の行財政改革」をと改革の規模とスピードを競っています。

新憲法案そのものが違憲

 現時点で自公民「改憲」勢力は、国会内では両議院の3分の2を上回っています。これは、現行憲法96条の改正発議要件をを満たしています。

 しかし、そもそも彼らが現行憲法を根本的に覆そうとすることこそが憲法に反する行為です。

 現憲法は、前文にあるとおり、主権者たる国民の名によって確定されました。

 「改憲論議」は、その国民によって始まったのではありません。「憲法は占領軍によって押し付けられたものだ」「自衛隊の存在や自衛権など9条をめぐる『神学論争』に意味はない」「人権尊重が身勝手・利己主義の風潮を生み出した」といった、憲法を罵倒する発言を繰り返してきた改憲勢力による誘導です。

 現憲法99条は、天皇・摂政・国務大臣・国会議員・その他の公務員に「憲法尊重擁護の義務」を負わせています。「尊重する」とは「遵守しその内容を実現すること」を意味し、「擁護する」とは「憲法違反の行為を予防し阻止する」ことです。その義務を負う国務大臣や国会議員が自ら進んで現憲法を非難し、平和主義・基本的人権の尊重・国民主権という憲法原理を覆すクーデター的改憲を口にする。ましてや正面きって「新憲法」を提案すること自体が明らかに憲法違反なのです。

 「国民の厳粛な信託」によって彼らに課せられているのは、現憲法の理念に貫かれた国家・社会を作ることです。最高法規である憲法を廃棄する権限は全くありません。国民主権をないがしろにする自公民の暴走を許すことはできません。

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS