2004年以降、「ニート」という言葉が新聞や週刊誌をにぎわした。もともと「ニート」は、仕事に就いておらず学生でもない若者層を指す英語NEET(Not in Education,Employment or Training)をそのままカタカナにしたものだ。それが、凶悪犯罪を犯した若者とだぶらせて、働く意欲のない「ひきこもり」イメージの若者を指す否定的な言葉として使われるようになった。そして、「ニート」が増えているのは親が子どもを甘やかすからだとか、戦後教育が悪かったからだといった言説が流布されていった。
本書は、その「ニート」という概念の流布が若年層の就業構造問題を個人の責任や心のあり方の問題にすりかえていることへの本格的な批判の書である。
第1部では、まず「ニート」の誤った使われ方が批判される。
内閣府の『青少年の就労に関する研究調査』は15歳から34歳までの、学生・既婚者を除く無業者を「求職型」(統計上の失業者に当たる)、「非求職型」(働きたいという希望はあるが求職活動を行なっていない)、「非希望型」(働きたいという希望も持たない)に分類し、後の2つを合わせたものを「ニート」と呼んでいる。つまり、NEETが本来含んでいた失業者を日本の「ニート」概念は排除したのだが、ここに大きな問題がある。
「非求職型」は、むしろ「求職型」(失業者)やフリーターと合わせて「不安定層」とでもいうべき層を構成しており、この層はいまや400万人を超え、15歳〜34歳の年齢層(学生と主婦を除く)の2割を占めるに至っている。本来なら採用する企業側の問題こそが取り上げられなければならないのに、「働こうともしない本人が悪い」という若者個人の責任論へとすり返られていった。その役割を担ったのが「ニート」言説だった。
本書は「不安定層」がここまで増えた理由について、直接的には「学校経由の就職」(学校に在学中に就職を決め、卒業と同時に正社員として働く)が後退したこととし、より根源的にはグローバル経済競争の激化の下で企業がアルバイト・パート・派遣などの非典型労働者への依存を深めたことを指摘している。
今後の対応策としては、正社員と非典型雇用との間の賃金・処遇格差の縮小、非典型雇用への社会保険の適用拡大、高校における職業教育の復権などが提案されている。
第2部では、若者全般や「ニート」に対する否定的言説が産み出される背景が分析され、第3部では現役大学生が「ニート」論の広がりを具体的に跡付けている。
「ニート」と呼ぶことでその責任が若者自身にあるかのようなキャンペーンを克服し、若者が展望を持てる社会を再構築していくために、ぜひ読んでほしい本である。(U)