ロゴ:怒りから建設へロゴ 2006年02月24日発行924号

第11回『新たに無料法律相談所も開設 女性を守るシェルターをもっと多く』


地図

 米議会の調査センターが、イラク戦争以後犠牲となったイラク市民は少なくとも25万人、その大半が女性や子どもだったとの統計を示した。その数は、実態を表すものではない。犠牲者はまだまだ増えている。まして占領下での人権侵害は日常化し、調査されることもない。イラク自由会議(IFC)に加盟するイラク女性自由協会(OWFI)は、激化する女性への虐待・迫害から女性を守るため精力的に活動を続けている。前号に続き、新たなプロジェクトやシェルターについて紹介する。(豊田 護)

弁護士が無料相談

 「必要なのは、弁護士がいつでもいる事務所を開設することです。誰でもここを訪れて、援助が受けられることを社会的にアピールすることです」

OWFIキルクーク支部長のフリアルと夫で弁護士のレイス
写真:夫妻が並んで写る

 OWFIキルクーク支部長フリアル・アクバルが説明を始めた。新たなプロジェクトとしてOWFIが取り組んでいるものだ。無料法律相談所というよりも、ともに解決に向け闘う法律支援センターとでも言えようか。事務所の準備もはじまった。市の中心部によく目立ち、かつ安全な場所を見つけた。成功の鍵は弁護士の協力である。フリアルの夫レイスは弁護士をしている。他の多くの弁護士とともにプロジェクトを支える協力者となっている。

 だが、今のイラクに女性の権利を守る法律があるのか。法的に支援することは可能なのか。フリアルは答えた。

 「女性の権利に関する国際法に基づいて政府に圧力をかけることができます。新憲法でさえ、いかなる法も人権に反してはならないという規定があります。この部分を活用する必要があります」

 多くの困難が予想される。だが、フリアルには自信がある。

 「レイスとある女性の家に行き、家族と話し合う中で解決したケースがありました。また法廷で勝利した例もあります。もっと多くの弁護士がいれば、もっと多くのケースを扱うことができます。多くの人々が法律支援センターを活用し、女性の権利を保障しない法律と闘い、状況を変えることができるかもしれません」

命の保障と安全な生活

 アルビルの女性シェルターを訪問した。民家と民家の間に人一人がやっと通れるほどの通路を行くと、通りに面した住宅に隠されるようにシェルターはあった。法律支援センターは目に付くことが重要だが、シェルターは、誰にも知られないことが女性の安全にとって必要だ。

アルビルの女性シェルター(右がスルマ、左がエルハム)
写真:二人が座って語る

 「願いは、命の保障と安全な生活。他の女性と同じような暮らしがしたいだけ」

 シェルターにいるスルマはそう語った。

 スルマは恋愛をした。だが、家族からは、つきあうなと脅された。相手の男性もそうだった。結局、男性が殺され、スルマはラーニアの実家からアルビルへと逃げ出した。1997年のことだ。その後、別の男性と結婚したが、今度はその夫から暴力や迫害を受けた。耐え切れず警察に保護を求めた。ひと月の留置場暮らしの後、スレイマニヤのシェルターを紹介された。そして、2001年アルビルのシェルターに移った。

 「家族からは今でも脅しがあって、実家に戻ることは無理なことです。親兄弟に会えればどんなにうれしいか。でも、いまでは国外に出て暮らすしかないでしょう」

 スルマは、小さな声でそういった。

 「いまOWFIでは彼女を守るために経済的な援助を含め最大限努力しています」

 アルビルで活動するエルハムはつけ加えた。

 「シェルターの必要性は日に日に高まっています。3日前にも、モスル市から同じようなケースの相談がありました。モスルにはシェルターがありません」

もっともっと宣伝を

 昨年の10月11日のことだ。キルクークに住むアメル・フセイン・アリは、自らガソリンをかぶり焼身自殺した。

 晩婚を恥じる家族によって、いとこのアハメドと無理やり結婚させられたアメルは毎日酔った夫の暴行にあった。家族に訴えても何の反応もない。部族の伝統では、夫は何をしても許されるからだ。前の日、夫は妊娠しているアメルをさんざん殴り倒した。アメルは耐え切れず、翌朝命を絶ったのだった|。

 シラルは16歳で結婚した。父親が500ドル相当で売りとばしたからだ。夫はシラルを虐待し、毎日のように痛めつけた。1人目の子どもを産み、2人目を妊娠した直後のある日、激しい口論の末、夫はシラルを殴り倒した。夫が出かけてすぐ、シラルは浴室で自らに火をつけた。赤ん坊を道づれに死んだ|。

 「女性が虐待を受けるケースは、把握できているものだけでひと月に10件は起きています。家族に焼き殺されたりする女性は数千人になるでしょう」

 フリアルの話と同じ状況をアルビルのOWFIメンバーからも聞いた。アルビルにある女性のためのシェルターは、6年間で600の事例を扱った。

 貧困のため売春せざるを得なかったナスリーンをそれまで何の援助もしなかったいとこたちが射殺。死体の目をえぐり、鼻をそぎ落とし、爪をはがし、釘をつけた棒で乱打した例。恋愛が家族に知られ、繰り返し虐待を受け耐え切れずに自殺したオーハム。夫が別の女性と結婚したことを知り焼身自殺したバクシャン。

 「以前は誰もシェルターについて語ろうとしませんでした。私たちがシェルターの活動を始めると他の諸政党もシェルターについて言及せざるを得なくなりました。女性たちが自分の属する政党に『なぜシェルターを支援しないのか』と尋ねるからです」(フリアル)

 女性を守るシェルターはイラク社会にとって主流の考え方になっていく。同じように法律支援センターのプロジェクトも社会を変える力になる。フリアルは確信を持って語った。

 「わたしたちはもっと宣伝しなくてはいけない。テレビもラジオも必要です。政治的にも思想的にも、正しい考え方を伝えなくては」  

         (続く)

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