2006年03月03日発行925号 ロゴ:なんでも診察室

【高血圧の治療】

 このごろ少々しんどいと思っていた矢先、たまたま血圧を測ると収縮期160 / 拡張期105でした。寒くなると血圧が上がる人が多いようですが、厚着のため血圧を測るのが面倒で、長い間測っていませんでした。血圧が高いことがわかると何となく頭痛がして、元気がなくなりました。

 みなさんはこんな経験はないですか? しんどいので医者にかかり、「血圧が高いですね」といわれるとがっくりきて思考回路が乱れ、出された薬を飲むと血圧が下がり、何となく安心する。それが本当にいいことなのかどうかも吟味しないまま、延々と薬を飲み続けることが繰りかえされています。

 若い方々にとっても他人事ではありません。政府の医療改悪案では、都道府県は「生活習慣病」の「予防」推進を義務づけられますので、将来はみなさんの半分以上が「高血圧」にされ、服薬を勧められるのです。

 1993年のWHO(世界保健機関)・国際高血圧学会や1990年の日本医師会・厚生省基準では、70歳未満なら、食事で塩分を減らす、運動を増やす、などをしても3か月間160 / 95(70歳以上180 / 100)以上が続けば薬を開始しました。ところが、2004年には、年齢によらず140 / 90以上は服薬することになったのです。

 ちょっとした数字の変更と思われるかも知れませんが、新しい基準では成人男性の約45%、成人女性の約35%が高血圧症という病気になります。病気というより老化と言った方がよさそうですが、新基準になることで高血圧患者が3200万人増え、薬剤費は1兆円増えるとNPO・医薬ビジランスセンターの浜六郎氏が試算しています。世界人口のたった2%の日本でこうですから、世界的にはどれだけの人が薬を飲まなければならなくなるか考えてみてください。製薬会社に巨大な市場を提供したことになります。医療機関も患者が増えるので喜んでこの基準を実施します。

 薬を飲んで脳梗塞など本当の病気を防げるなら、1兆円使ってもいいのかも知れません。しかし、高齢者での収縮期160以下の「高血圧」の薬による治療が良い効果をもたらしたという厳密な研究はないのです。効いたという研究の患者は、平均血圧が収縮期170とか180です。むしろ下げすぎると寿命を縮めるというデータが多々あります。WHOは、タミフルの備蓄や劣化ウランと同様、科学的な決定をしなかったのです。

 前述の浜氏は、他に病気がないなら180 / 100までは薬の必要がないとしています。それでは怖いという方でも、160 / 95までは服薬でなく、食事改善・運動などが無難です。

  (筆者は、小児科医)

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