2006年03月10日発行926号

【拡大する所得・雇用格差 残酷な小泉構造改革】

 小泉構造改革が格差拡大に拍車をかけている。それは社会現象としても顕在化しており、朝日新聞の世論調査(2月5日付)でも74%の人が「所得格差は拡大」と感じている。にもかかわらず小泉首相は、格差拡大を否定し、それが全く説得力をもたないとみるや、今度は格差拡大を当然視する発言まで行っている。

格差拡大否定する政府

 内閣府は1月19日、「月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料」(2006年1月)で格差拡大を否定する報告を提出。翌日の国会で小泉は格差拡大の追及に「格差の拡大は確認されていない、との報告を受けた」と開き直った。

 内閣府の資料は、「所得・消費の格差、賃金格差等が主張されるものの、統計データからは確認できない」「ニート、フリーター等若年層の就業・生活形態の変化には、将来の格差拡大要因を内包」などと分析している。とりわけ、政府自身が所得格差の指標としてきた「ジニ係数」(注)の増大は、高齢化と世帯規模の縮小の影響により「見かけ上拡大している」、つまり、実際は拡大していないとしたのである。

 所得格差を「ジニ係数」だけでみるのにはもともと批判があったが、政府は、その数値が欧米よりも小さいうちは「格差がない」根拠にしてきた。それが増大すると、今度は「見かけだけ」と解釈するというまったくデタラメなご都合主義なのだ。

 高齢世帯や世代間での所得格差拡大は、政府サイドのさまざまな統計資料によっても否定のしようがない。例えば、個人間での所得格差について、非正規雇用などもカバーした太田清「フリーターの増加と労働所得格差の拡大」(内閣府経済社会総合研究所)によれば、「労働所得の格差は97年以降拡大」しており、「若年層でその拡大のテンポが速い」という。また、「中年層の間でも格差は拡大」していることも明らかにされている。断じて「見かけ上拡大」などではない。

23・8%が貯蓄ゼロ

 では、賃金と雇用の実態を見てみよう。

 年収300万円未満の男性労働者は、97年に762万人(23・6%)から02年には889万人(28・3%)に、年収200万円未満の女性労働者は1096万人(51・5%)が1201万人(54・9%)に増加している(厚生労働省の就業構造基本調査)。同時期に雇用者総数が減少しているなかでの増加だ。

 過去10年間の法人企業従業員の給与所得をみれば、資本金1億円以下の中小企業では平均給与が16%下がったのに対し、資本金10億円以上の大企業では1%上がっている(法人企業統計調査)。

 その結果、98年から労働者世帯の実収入減少が止まらず、減少を補うために貯金の取り崩しをせざるをえない。金融広報中央委員会の昨年の調査では、23・8%の世帯が貯蓄ゼロという深刻な事態であることが判明した。

 正規雇用者も、97年に1776万人だったものが02年に1542万人に減少している(就業構造基本調査)。雇用者総数での比率を見ると、34・7%から30・3%へと少なくなっている。これは、国際競争に勝ち抜くためにグローバル企業の使い勝手のよいように雇用構造を変化させてきた結果だ。つまり、正規雇用の非正規雇用への置き換えが進められたからである。

 今後も、「正規だけでなく非正規も採用するつもりはない」とする企業が42%、「正規は採用しないが、非正規なら採用」とする企業が23%(労働政策研究・研修機構の05年調査)であり、置き換えはさらに進められようとしている。こうした変化が、若年層を正規雇用から排除してフリーターや失業・無業に追いやり、賃金・雇用格差を拡大している根本的要因なのである。

全分野で格差が固定化

 格差拡大は所得に限らず、教育や消費など他の分野にも波及している。

 フリーターの調査結果によれば、中学校の成績が低い生徒が多く進学する高校の生徒がフリーターになりやすく、親自身が流動的な仕事に就いている場合にフリーターになる可能性が高い(苅谷剛彦ほか『「学力低下」の実態』岩波書店)。世代をこえて学歴や地位が固定化されるなど「機会の平等」まで失われようとしており、問題は深刻なのである。

 小泉が否定しようとも、企業はすでに格差拡大を前提に対応している。トヨタが高級車レクサスを昨年5月から国内販売を始め、数億円という高級マンションが即日完売される一方で、日清食品が「年収400万円以下の低所得者向けカップめん」の開発を明らかにしている。グローバル資本は、格差拡大の下で、高所得者をターゲットにするだけでなく、その犠牲者まで食い物にしようとしている。

 このような状態を「将来に希望がもてる人と将来に絶望している人に分裂していく希望格差社会」(山田昌弘『希望格差社会』筑摩書房)と評する学者もいる。まさに、あらゆる分野で格差と分断を押し付ける社会が作り出されているのである。

 小泉構造改革の残酷さは、希望まで失った人に対しても「自己責任」を強要し、「負け組」とされる人びとを排除の対象としているところにある。

普通に働ける社会を

 マスコミは格差拡大論議の深まりにブレーキをかけることを忘れていない。朝日新聞社説「格差社会 改革の中で考えよう」(2月6日付)は、「格差拡大のすべてを構造改革のせいにはできない」として小泉改革を擁護している。

 だが、小泉政権になってから格差拡大が進んだことは明白な事実であり、それを覆い隠すことができないまでに深刻化している。

 米国は、まず若年での格差拡大が進み、それが全体に拡がっていき、世界最大の格差社会を生んでしまった。そして、その実態がハリケーン「カトリーナ」によって露呈した。日本はその米国の後追いをしようとしている。

 格差拡大を許さず、誰もがふつうに働ける社会、老人や弱者も安心して生きられる社会にするには、小泉構造改革を止めるしかない。

(注)主に社会における所得分配の不平等さを測る指標。イタリアの統計学者ジニによって考案され、全員の所得が同じ場合はゼロ、1人が全所得を独占する場合は1となり、数値が高いほど格差が大きいとされる。厚生労働省調査による係数は、80年の0・32程度が01年0・38程度に上昇。

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