ロゴ:国際法を市民の手に 前田朗 2006年03月31日発行929号

第87回『イラク世界民衆法廷(7)』

 2004年4月14日から17日にかけて、ブリュッセル(ベルギー)で「ブラッセル法廷」が開かれた。ブリュッセルの地名と、かつてヴェトナムにおけるアメリカの戦争犯罪を裁いたラッセル法廷とを掛け合わせた名称である。

 法廷が焦点を当てたのは、イラク戦争の推進力となった「新アメリカの世紀プロジェクト(PNAC)」の思想と行動である。ブラッセル法廷憲章は次のような現状認識を述べる。

 1997年、ワシントンで、世界におけるアメリカの指導力を目指したPNACというシンクタンクが設立された。2000年と2001年、PNACは、世界における同時多発的な戦争に勝利を収めるためにアメリカのヘゲモニーが必要であり、そのために防衛費の増強が必要であるとした。PNACの主張は、2002年9月のブッシュ大統領の「国家戦略安全保障」によってアメリカ政府の政策として採用された。これこそが2003年のイラク戦争を「予防的戦争」として発進させた根拠である。世界平和のために、PNACと「国家戦略安全保障」が未来に対してもつ脅威に対して警鐘を鳴らさなければならない。そのためにブラッセル法廷開催を呼びかける。

 ブラッセル法廷検事の中心は、カレン・パーカーである。パーカーは、カリフォルニアの弁護士で、国際人権法と人道法に詳しい。また、NGOの国際教育開発・人道法プロジェクトの責任者として、国連人権委員会などで活躍している。先住民族の権利、劣化ウラン弾の危険性、日本の代用監獄における人権侵害、日本軍「慰安婦」問題などを取り上げてきたことで知られる。

 弁護人は、ジム・ローヴェとトム・バリーである。ローヴェは、アメリカのジャーナリスト・評論家で、国際報道サービスでの活動が長い。バリーは、ニューメキシコの国際半球資源センター政策担当者である。

 4月14日には、イラク戦争のビデオ上映の後、実行委員会のリーヴェン・デカータの開会挨拶、イラク世界民衆法廷イスタンブール実行委員会のアイシェ・ベルクタイ、ブラッセル法廷議長のフランソワ・ウタの挨拶、ラムゼー・クラークのビデオ・メッセージ、フランス現代思想を代表するジャック・デリダのメッセージが続いた。(デリダのメッセージは、ジャック・デリダ「来るべき正義のために」(藤本一勇訳)『前夜』創刊号(2004年)として邦訳されている。もっとも、中東問題に言及したくだりのあいまいさに対して、会場から大いなる不満のブーイングが飛んだことには言及がない。)

 4月15日には、「PNAC−新帝国世界秩序の青写真」として多数の証言と告発がなされた。ロレンツォ・メコリとガブリエル・ザンパリニ「21世紀−PNACのドキュメント」、トム・バリー「PNACとアメリカの平和」、ジョフリー・ゲウエンス(リージュ大学助手、ベルギー)「PNACと石油産業、軍需産業」、ジョン・サックス・フェルナンデス(メキシコ国立大学教授)「ネオ保守主義イデオロギーとブッシュ政権」、サラ・フラウンダース(国際行動センター・コーディネータ、アメリカ)「複合権力−PNACと石油産業」、エイミー・バーソロミュー(カールトン大学助教授、カナダ)「人権と帝国の剣」、アーマンド・クレッセ(ルクセンブルク国際研究所事務局長)「欧州はネオコンの戦争政策にいかに対応しているか」などが報告された。

 4月16日には、「PNACの政策とイラク戦争」として、イマヌエル・ウォラーステイン(ニューヨーク州立大学教授)の文書提出「慈悲深いヘゲモニー?−ネオコンの政策は長い眼で見てアメリカの外交政策を破壊する」、マイケル・パレンティ(政治評論家、アメリカ)「世界の支配者」、ミシェル・コロン(ジャーナリスト、ベルギー)「グローバルな戦争が始まった」、ハンス・フォン・スポネック(国連イラク査察団、ドイツ)「イラク戦争、国連、国際法」、ハイファ・ザンガナ(作家、人権活動家、イラク)「占領の恐怖とイラクの売り飛ばし」、ガズワン・アルムフタル(エンジニア、イラク)「PNAC政策の付随的結果」、ジム・ローヴェ「弁護側陳述」、カレン・パーカー「論告」などが行なわれた。

 4月17日には、判決の言い渡しが行なわれた。

<参考>http://www.brusselstribunal.org/

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