2006年04月21日発行932号 ロゴ:なんでも診察室

【タバコの誤飲】

 「8か月の子どもがタバコを食べたのですがどうしましょう」―こんな相談がよくあります。

 実は、私の子どもが小さい頃、早朝にごそごそしているので目をこすりこすり見たところ、タバコを食べているではありませんか。あせりました。なにしろ当時はタバコの誤飲は大変危険だと考えられていました。救急病院を受診するのも恥ずかしく、近くの病院に駆け込み、鼻から胃に入れるチューブと生理食塩水を借りてきて、子どもを押さえつけて「胃洗浄」をしました。幸いほとんど胃には入っていなくてほっとしたものの、それからはふたのついた灰皿を使い、子どもの手の届かない所には置くようにしました。

 小児科が対処できる事故の代表が誤飲です。タバコは誤飲の半分近くを占めて断トツです。この傾向は長年ほとんど変わりません。喫煙者が社会から排除され、喫煙場所もなくなり、急速に喫煙者が減っているような気もしますが、それほど減っていないのです。

 男性の喫煙率は、1980年代には約60%でしたが、03年には13ポイント減って約47%になっています。ところが女性は15%程度から13%になっているだけです。タバコの販売本数はピーク時の96年の3483億本と比べて、04年の2926億本と16ポイント程減っていますが、82年の3151億本と比べると7ポイント程度しか減っていません。日本たばこの05年4―12月期連結業績では、売上高3兆5503億円で、国内売り上げは減っているがロシアを中心に輸出が増し、リストラと合わせてぼろもうけです。

 これでは、禁煙を強制している様々な規制は、ビルの管理費の節約などには大いに貢献しているかもしれませんが、健康のためには大して役立っていないと言わざるを得ません。

 その一つの証として、赤ちゃんのタバコ誤飲があまり減っていないことがあるわけです。赤ちゃんが何でも口に入れるのは重要な発達の一里塚であり、当然のことです。ところがタバコを口に入れれば病院に運ばれ、チューブを鼻から胃につっこまれて、胃を洗われます。

 このタバコ誤飲の治療法に変化が出ています。タバコは以前ほど危険ではないことがわかってきました。子どもはタバコを吐くことで防衛します。私は、危険な量が入っていないかどうか確かめる意味でも簡単に胃洗浄をしてきましたが、2分の1本以下で症状がないなら、まずは2時間の観察でもいいようです。が、ともかく、タバコを誤飲させない大人の努力が必要です。  (筆者は、小児科医)

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS