ロゴ:怒りから建設へロゴ 2006年04月28日発行933号

第15回『占領軍とイスラム主義者に支配されたメディア / 民衆の声を伝えるテレビ局が必要』


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 占領3年を経たイラクでは毎日毎日、民衆が犠牲となる事件が起こっている。特に、2月末のモスク爆破事件以来、「内戦の危機」を強調するニュースが目立つ。民衆の間には宗派の違いによる憎悪はないとはいえ、連日の報道により、猜疑心が刷り込まれていく。政教分離、自由で平等な社会の実現をめざすイラク自由会議(IFC)の活動を一刻も早くイラクの人々に、そして世界に伝える必要がある。衛星平和テレビ局開設は急務だ。(豊田 護)


つくられた宗派対立

 4月7日、バグダッド北部のシーア派のモスクで、金曜礼拝に集まった群衆を狙って3人のテロリストが自爆した。死傷者は200人を越えた。犯行の詳細はわからないにもかかわらず、CNN、ロイターなどは、シーア派・スンニ派の抗争として「流血の報復合戦」「宗派間対立を抑えられない」と報じている。

 占領軍ではなく民衆を狙った自爆攻撃はこれまで何度も引き起こされている。民衆間の内戦は最悪の事態に違いない。だが、どうしても不自然だ。

 爆弾攻撃にしても不可解なことが多い。「イラク人に変装した英兵が爆弾を仕掛ける」(3/12イラク・レジスタンス・レポートなど)との報道もある。一方、自爆未遂犯の証言から、イスラム主義者にリクルートされている実態も伝わってくる。ホームレスの子どもたちが人間爆弾に仕立てられることもあると聞いた。

 仮に宗派間の対立だとしても、なぜリーダーではなく、一般民衆を殺さなければならないのか。納得がいかない。

 「報復合戦の発端」とされる2月のアスカリ聖廟爆破事件。シーア派の聖地の一つながら、スンニ派の人々も礼拝に通っていた。「祈りの場所を爆破するのはムスリムではない」という民衆の怒りの声にこそ得心できる。明らかに、「宗派間の対立」を作り出そうとする政治的意図に基づいた犯行だと言える。

 民衆に猜疑心を植え付け、連帯と相互信頼を奪うことを必要とする輩(やから)がいる。エゴイズムを蔓延させることは、弱肉強食の社会をめざすものにとって、まことに都合がいい。イラク報道は、この流れに沿ってなされている。

統制された報道ばかり

 それを裏付けるような事実がある。米軍はイラクの新聞社に報酬を払い、軍が作成した記事を一般記事のように装って掲載させている。昨年11月米紙ロサンゼルス・タイムスが暴露した。占領軍によるメディア・コントロールは常態化している。イラク国内で占領批判の報道はほとんど不可能だ。ラマディでは、武装集団に破壊された米軍車両を撮影していたテレビ・クルーが米軍に撃ち殺された。

 サダム政権下では、地上波の国営テレビ・ラジオが数局あったに過ぎない。衛星テレビのアンテナを立てると処罰されたという。2002年9月「自由化」の一つとして衛星放送のプロジェクトが実施された。厳選された14のチャンネルが再送信されたようだが、ほとんど普及しなかった。当時、「サラーム・パックス」の名でバグダッドから発信されたブログはそう書いていた。

 米政府は「中東の民主化」を掲げた。受信できるテレビ局の数を比較すれば、はるかに「自由度」は増した。どの家にもパラボラ・アンテナは立っている。NHKのデータブックには、受信世帯が04年で全世帯の3分の1、05年には半数に達しているとの推測値が示されている。

 現在、イラク国内で見ることができるテレビ局は600局にも上る。だが、放送内容は、米英占領軍と傀儡(かいらい)政権の宣伝やイスラム主義者の説教のほかは、周辺国からの音楽・バラエティー番組が大半だ。情報が統制されている点ではサダム政権下と変わりがない。

 よく知られたブログ「バグダッドバーニング」(http://www.riverbendblog.blogspot.com/)で、イラク女性リバーベンドは「最もよく観られているテレビ局は、政権争いしているそれぞれの政党が出資しているものだ」と書いている(3月28日付け)。前首相アラウィを支持する「シャルキーヤ」、イラク・イスラム革命最高評議会の「フォラート」、ダワ党「イラキーヤ」など、「本当に”中立な”イラクの番組は見当たらない」と嘆いている。

政教分離を求める人々

 アル・ジャジーラに代表される周辺アラブ国の衛星放送はどうか。IFCのサミール・アディル議長は、アル・ジャジーラは武装集団と支持・支援関係があると批判する。記者自身、2004年1月、ファルージャ郊外で民衆に取り囲まれた時のことを思い出す。メディアの報道姿勢を批判した青年が、アル・ジャジーラさえ民衆の受けた被害を正確に報道しないと記者に怒りをぶちまけたことがあった。

 いまイラクでは、占領の真実や政権に連なる政党の腐敗を暴露する報道を見ることはできない。民衆が社会に希望を持てる出来事を知るテレビ番組はない。政教分離、自由・平等を主張し、報道するテレビ局はない。

 この困難な状況の中で、学生たちがイスラム主義者たちの暴力を非難する動きを作っている。「もし人々が何もしないで家に閉じこもっていたら、その結末は内戦になるだろう」とバスラの学生は語っている(3/26ロイター)。学生たちは、宗派間の暴力抗争の愚かさをチラシやポスター、インターネットを使って広めている。その動きはバグダッドにも広がろうとしている。「人々の心を開いて、反感や復讐という感情を和らげるんだ」とインターネットのチャットを通じて共感者を増やしている。

平和テレビ局の開設を

 民衆は政教分離を望んでいる。テレビを使えば、もっと早く、もっと広く伝えることができる。1年前、バスラ大学で起きたイスラム主義者の学生殺害事件には、大抗議行動が起こった。学生・市民がデモを繰り広げ、謝罪をかちとった。また、最近バスラ最大の南部石油労働組合が政教分離、自由・平等を掲げるIFCに加盟した。住民間に対立を持ち込ませないキルクーク連帯(アル・タザムン)地区の取り組みはイラク全土から歓迎されるだろう。

 IFCは衛星テレビの試験放送にむけ、準備を急いでいる。候補となっている放送衛星の一つ”ホットバード”は、ヨーロッパ通信衛星機構(ユーテルサット)の静止衛星だ。今年3月、7号機が東経13度の赤道上に打ち上げられている。西はアイスランドから東はウラル山脈を越え旧ソ連領に及び、南はアフリカの地中海沿岸国から北はスカンジナビア半島の北端まで、電波が届く。

 世界各地で取り組まれているIFC連帯、イラク平和テレビ局開設キャンペーンのピッチを上げねばならない。絶望と猜疑心がイラク民衆の心を支配する前に、一刻も早く希望の光を届けねばならない。占領・イスラム政治勢力と闘うイラク民衆にとっても、グローバル資本と闘う世界の民衆にとっても大きな力となるはずだ。そしてこれは、権力に支配されたメディアを民衆の手に取り戻す闘いでもある。(続く)

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