2006年05月12日発行935号

【Q&A「新憲法」と国民投票法案 不法・無効の憲法破壊】

Q 今、なぜ改憲なのでしょうか

 昨年11月、自民党は新憲法草案を決定しました。

 この草案は、現行憲法の国民主権原理を根本から覆し、「国民のための国家」から「国家のための国民」へと転換するものです。

 憲法は、為政者の恣意的な権力発動を規制し、国民一人ひとりの権利を守るためにあります。しかし自民憲法案は、国民の自由と権利を「公益・公の秩序」に沿って行使するように定めています。これは、「国家が許容する範囲に規制する」ことにとどまらず、より積極的に「国家に尽くす」ことを義務づけるものです。

 自民草案の「公益」の実体は、グローバル資本の権益です。

 グローバル資本は、「テロとの戦い」を看板にイラクへの軍事侵略を正当化し、戦争そのもので儲け(軍需産業)、占領支配による復興利権(土木・建築)で儲け、かいらい政権との結託による経済支配で儲け(エネルギー産業など全部門の民営化)と利権をあさっています。今後も、武力と札束で世界中のあらゆるところから利潤をあげることをもくろんでいるのです。

 現在進められている、米軍再編と自衛隊機能強化を通じた日米軍事一体化も、一層機動的・効率的に武力と経済力で利潤を追い求めるためです。

国民投票法反対訴え国会へデモ行進(4月6日・東京)
写真:国民投票法反対訴え国会へデモ行進(4月6日・東京)

 彼らが必要としているのは、国家の機能を権益確保のための装置としてより純化させていくことです。今やすべての国民を対象とした医療・社会保障などは「ムダ」でしかなく、その「ムダ」を排したものが「小さな政府」なのです。教育は、グローバル資本の利益のための産業技術の発展に寄与することと国家への忠誠心を育む役割以外は必要ありません。派兵や財政出動は迅速に実行しなければならず、議会や世論に配慮していると時期を逸します。だから、「首相主導・政治主導」を声高に叫び、首相権限を強化しようとしているのです。

 これらを実現するためには、憲法が掲げる国民主権・平和主義・基本的人権の尊重などの諸原則は邪魔なものでしかありません。だからこの憲法原理を覆すための新憲法制定を急いでいるのです。

Q とはいえ、改正手続きは必要では?

 必要ありません。現在、国民一人ひとりがより豊かに一生を過ごす観点からすれば、憲法の規定の大きな不備は国民主権に反する天皇制以外には見あたりません。そして、国民主権の下で、国民に不都合がない憲法を変える必要がどこにあるのでしょうか。

 人権の中に環境権がない・プライバシー権がないことなどをもって、人権拡張・民主主義の発展の立場から「憲法を改正すべき」という主張もあります。しかし、「環境権」など新しい権利は、憲法をより発展させる法整備で可能です。

 そもそも、これら新しい権利の実現を阻害しているのは憲法ではなく、現為政者の行為です。議会・行政・司法がより積極的に憲法理念を発展させる方向で機能すれば、何ら問題ないのです。

 自衛隊の存在に代表されるように、憲法の理念がまっとうに実現されたことはなく、心ある国民の努力によって実現させていかねばならない過程にあるのです。

 いったい誰が「改憲」とそのための「手続き」を必要としているのでしょうか。それは、憲法が掲げる基本理念を自らの欲求を実現するための阻害要因ととらえている人たち=グローバル資本とその利益に連なる人々です。つまり、自民党新憲法草案に代表されるような、国家に国民を隷従させることを必要とする人たちです。

 自民党新憲法草案は、憲法と対立する価値観を基準とした憲法案です。現在とまったく異なる社会・政治体制を目指すものであり、クーデターとも呼ぶべきものです。タイトル通り、憲法を否定し新しい憲法を作ろうというものであり、改正手続きで実現できるようなものではありません。

 憲法は、第96条で憲法改正手続きを定めています。要件は、「国会議員の3分の2の賛成で国会が国民に対して発議」し、「国民投票の過半数の賛成」を必要とします。一方で、第98条は「この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない」とし、第99条は「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」としています。

 国民に対して改憲を発議するのは国会であり、その国会を構成する国会議員には、憲法遵守義務が課せられています。だから、憲法改正手続きで可能な改憲は、憲法に合致する範囲に限られています。その範囲を超える自民草案のような「改憲案」を発議すること自体、第98条の「条規に反する行為」であり、憲法破壊なのですから無効です。

 今回の「改憲」の動きは国民の側からの必要性はなく、それを望む支配層の側には許されない行為であり、強行しても無効です。だから、国民投票法の制定の必要性はまったくないのです。

Q 投票法案のどこが問題?

 国民投票法案を巡っては、自公与党案と民主党案が協議中です。しかし、そもそも不法・無効な行為をあたかも当然のことであるかのように偽装しているわけですから、まっとうな法案にできるわけがありません。

 4月18日に公表された与党協議会での案は、投票方式は改正案ごとに個別投票、メディア規制は一部削除し「自主規制」を盛り込む、周知期間は60〜180日以内など与党が民主党にすりよる案になっています。あたかも「より民主的な法案」に修正されつつあるように宣伝されていますが、それは見せかけだけです。 数ある問題の中でも、自ら「新憲法」と称する根本的な改定である以上、最大の問題点は周知期間の短さです。

 自民党新憲法案にしろ民主党の憲法提言にしろ、現憲法を否定するものですから国民投票にかけること自体が不法・無効な行為です。仮にこの点を度外視して考えてみても、最長でも「発案後60〜180日以内」という周知期間はあまりに短すぎます。

 「改憲」であれ「新憲法制定」であれ、国の体制の根本を問う「案」について、国民一人ひとりが反対・少数意見も含めて吟味し論議し、真に国民の意思として表明できるようにすべきでしょう。2か月や半年で充分などというものではありません。

 そもそも、改正というのなら、現憲法の評価を出すことが先決です。しかし、憲法の評価を出すことなどできるわけがありません。今はまだ憲法の理念を実現する過程であり、憲法が貫かれた社会を誰も見ていないのですから。

 いま行われている国民投票法の駆け引きなど、ことの本質=クーデター的改憲であることを覆い隠すためのものでしかありません。

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