ロゴ:国際法を市民の手に 前田朗 2006年05月12日発行935号

第90回『イラク世界民衆法廷(10)』

 2004年8月26日、ニューヨークで、もう一つのイラク民衆法廷が開催された。国際行動センター(IAC)主催である。

 ラムゼー・クラーク(元アメリカ司法長官)が執筆した2004年8月5日付の起訴状は、ブッシュ大統領、チェィニー副大統領、パウエル国務長官、ラムズフェルド国防長官や、イラクにおける米軍指揮官等を被告人として、平和に対する罪、戦争犯罪、人道に対する罪、国連憲章や国際法の違反、アメリカ憲法違反で告発している。

 主な犯罪は、イラクの主権と人民に対する侵略戦争遂行、「衝撃と畏怖」作戦による民間人攻撃、クラスター爆弾や劣化ウラン弾の使用と核兵器使用の威嚇、暗殺・恣意的処刑・拷問の正当化、経済・社会・文化・教育の破壊、イラク人民の分断・分割による弱体化、軍事占領下における殺人、大量破壊兵器や無差別兵器の組織的使用、暴力的な体制転覆の宣言、イラクのみならず多くの諸国の主権に対する侵害、イラク人民の自己決定権や文化的統合の破壊、アメリカ憲法に違反する軍事力行使等である。

 IACは、法廷を「レジスタンス構築のための法廷」と位置づけて、幅広い参加を呼びかけた。コーディネートは、ジョン・カタリノットとサラ・フラウンダーズである。

 法廷における口頭証言や文書提出は、たとえば、イラク占領反対キャンペーン作成の諸報告書、ガズワン・アルムフタル報告書、日本のイラク国際戦犯民衆法廷の公聴会記録、ヨアヒム・ギリヤード報告書、グローバルな介入に関するマイケル・パレンティ報告書、フィリピンの立場からのロメオ・カプロン報告書、インドの立場からのマニク・ムカルジ報告書をはじめとして膨大なものとなった。

 法廷は、冒頭の全体会の後、多数の分科会に分かれて議論を行い、最後に再び全体会となった。その全体像は誰も把握していない。主要な証言者は、ネリー・ベイリー(ハーレム借家人委員会)、ブライアン・バラッザ(メキシコ系労働者協会)、ハナ・アルバヤティ(ドキュメンタリー映画制作者)、デニス・ブルータス(ピッツバーグ大学名誉教授、詩人)、スー・ハリス(民衆のビデオ・ネットワーク)、ミッチェル・コーヘン(ニューヨーク緑の党)、ゲリー・コンドン(ベトナム反戦兵士)、アイチャ・チュブックチュ(コロンビア大学大学院、イラク世界民衆法廷イスタンブール公判実行委員会)、ベン・デュプイ(ハイチ人民党)、ピーター・アーリンダー(ウィリアム・ミッチェル大学教授、アフガニスタン国際戦犯民衆法廷判事)、ジュリ・フライ(ナショナル・ローヤーズ・ギルド)、ラリー・ホームズ(ANSWER)、ジョン・キム(弁護士)、サラ・パウエル(パレスチナ連帯活動家)、マイケル・ラットナー(憲法的権利センター所長)、ドン・ロハス(ジャーナリスト)、オマール・シエラ(ベネズエラ活動家)、アレックス・マジュムダー(キューバ連帯活動家)、ダイドレ・シノット(編集者)、リン・スチュアート(弁護士)、フェルナンド・スアレス(イラク戦争で最初に死亡した米兵ジーザス・スアレスの父親)、ウォルター・ウィリアムス(ニューヨーク大学助教授)、マイケル・ウォレン(弁護士、アフガニスタン国際戦犯民衆法廷検事)、稲森幸一・高瀬晴久・前田朗・安原桂子(イラク国際戦犯民衆法廷実行委員会)であった。

 証言の後、傍聴人・参加者全員による投票が行なわれた。判事による判決や陪審による評決ではなく、会場参加者全員に白と赤の紙片が配布されていて、最後にサラ・フラウンダーズのコールに呼応して、全員が赤の用紙を高々と掲げて、被告人全員有罪の意思表示を行なう形式であった。

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