2006年06月02日発行937号 books

どくしょ室 / 戦争へと導いた「国連外交」

日本の外交は国民に何を隠しているのか / 河辺一郎著 集英社新書 本体660円+税

 日本は国連分担金を慢性的に滞納している。国連予算の約20%にあたる額の支払いを意図的に遅らせている。一体何のために。財政面での揺さぶりを通じて、国連の活動全般に影響力を駆使するためである。

 本書は日本政府の国連外交の実態を丹念に検証した労作である。マスメディアが伝えない日本の行いを知れば、政府がめざす国連安保理常任理事国入り策動の危険性がよくわかる。

 「日本は国連に多大の財政的貢献を行っているのに、重大な意見決定に加われないのはおかしい」−−常任理事国入り問題ではこうした議論が横行している。だが、これは著者に言わせれば「歪んだ認識にもとづく歪んだ議論」でしかない。

 冒頭に述べたように、日本は国連分担金を意図的に滞納している。そして様々な場面において、常任理事国には及ばなくとも、他の加盟国を圧倒する発言力を行使している。たとえば、イラク戦争に際して、日本は戦争を回避の動きに対抗して、国連を戦争容認へと導く工作を行ってきた。

 98年に米国がイラクを爆撃したときは、日本は安保理理事国を務めていたので、武力行使につながる決議の策定をリードすることができた。しかしイラク戦争前は理事国ではなく、安保理の審議に直接関わることはできなかった。そこで日本政府は、理事国の中で「中間派」と目された国が米国支持に回るように働きかけていった。

 懐柔に力を入れたアンゴラには「小泉首相の手紙」を携えた特使を2回も派遣した。アンゴラにとって日本は米国に次ぐ援助供与国である。疲弊したアフリカの小国に対し、日本はカネの力で戦争容認に回るよう圧力を加えたのである。

 もっとも、戦争回避という多数派意見が覆ることはなく、結局米英は国連を無視してイラク攻撃に踏み切ることになる。これを機に、日本の常任理事国入りを求める動きが政府与党内で再燃していった。

 理由はもはや明白であろう。「日本が常任理事国になれば武力行使容認決議を採択させる可能性が高まり、また、常任理事国は世界の平和及び安全に責任を負っているとして、日本が軍事行動をとる説明にもなる」からだ。つまり、常任理事国入りは戦争国家づくりという「国策」の一環として狙われているのである。

 日本外交が受身の立場であるかのように描き出すマスメディアや学者の姿勢を、著者は厳しく批判する。日本は「やむを得ず」米国に追随しているのではない。「その巨大な力を使って軍事的な方向に国連を動かしている」のだ。

 このほかにも、軍縮・人権問題への否定的対応など、日本の国連外交は「浅ましい」の一言に尽きる。今や平和を脅かす「国際的不安定要因」と化した日本の実像を知るために、本書は必読の一冊である。 (O)

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