ロゴ:国際法を市民の手に 前田朗 2006年07月21日発行945号

第95回『イラク世界民衆法廷(15)』

 2005年5月22日、バルセロナ(スペイン)でイラク世界民衆法廷バルセロナ法廷が開かれた。法廷は、ブリュッセル法廷やイスタンブール法廷など一連のイラク世界民衆法廷の一環であると同時に、イラク戦争本格化以前からローマ(イタリア)で開かれていた常設民衆法廷の活動にも注目している。ローマ常設民衆法廷は、ヴェトナムにおけるアメリカの戦争犯罪を裁いたラッセル法廷の判事団の一員だったレリオ・バッソが設立したバッソ財団が開いてきたもので、違法な戦争、戦争犯罪、軍事独裁政権による人権侵害などを取り上げてきた。イラク戦争についても、イラクへの武力介入は国際法違反であるとの見解を表明している。

 バルセロナ法廷には次の証人が登場した。イマン・アーメド・ハマス(ジャーナリスト、翻訳家、元バグダッド占領監視センター事務局)、ヤワド・モハマド・マーディ・アル-ハリシ(アルジャリシア大学事務局長、イラク国民会議基金事務局長)、インティサール・ムハマド・アライビ(アルヤルモウク大学病院薬局部門責任者)、ムハマド・タリク・アブド・アラー(人権民主主義研究センター事務局長)、アブダラ・アドゥル・ハミド・モウサ(バソラ石油産業労組執行委員)、アビド・アリ・カディム・アルマモウリ(アルナーレイン大学教授、国際経済論)、ムハマド・ヤシン・ムハマド(アダミヤ人権委員会委員)。

 バルセロナ法廷の名誉判事には、アーメド・ベン・ベラ(アルジェリア初代大統領)、ラムゼー・クラーク(元アメリカ司法長官、国際行動センター)、アドルフォ・ペレス・エスキヴェル(ノーベル平和賞受賞)、ジョアン・マルティネス・アリエ(バルセロナ大学名誉教授、経済史)、ロサ・レガス(作家、スペイン国立図書館事務局長)、ハビエ・サダバ(マドリッド大学教授、倫理学)、ナワル・エル=サーダウィ(作家)が名を連ねた。

 法廷の判事団は、フランソワ・ウタ(裁判長、三大陸センター事務局長)、メルセデス・ガルシア・アラン(バルセロナ大学教授、刑法)、カルロス・ヒメネス・ヴィラレホ(元汚職担当検事)、シャロン・マリー・セシ(国際行動センター)、ペドロ・マルティネス・モンタヴェス(マドリッド大学名誉教授、アラビア研究)、マリア・ピラール・マッサーナ・ロレンス(バルセロナ戦争停止連合)、ハウメ・サウラ(バルセロナ大学教授、国際法)である。

 判決は、法廷が検討した事実には、欧州諸国による中東の植民地化や石油支配の長い歴史に根源があり、アメリカ軍事戦略も石油支配に向けられていることを確認している。ブッシュ大統領が述べた戦争の正当化には根拠がなく、占領軍によるイラク再建なるものはアメリカ資本のための民営化にほかならない。その結果として、不正義、犯罪、人民の権利の侵害、死傷といった被害が生じているとした上で、判決は次のように確認している。

 1.イラク侵略と占領はイラク国家に反している。この侵略は国際法の原則に違反し、主権国家を転覆するものである。

 2.国際法によれば武力紛争による占領は事実状態である。その存在は国連安保理事会が宣言するか否かにはかかわらない。事実上の占領権力はイラクにおいて責任を有する。

 3.イラクの生産構造の解体、市場経済の導入、民営化は国際法に違反し、イラク人民の権利を奪う。

 4.イラクにおける膨大な戦争犯罪は国際刑事裁判所規程に違反する。

 5.イラク侵略はイラク人民のレジスタンスに正当性を与える。

 6.イラクの民主的な未来を破壊するテロリズムは拒否される。

 7.イラクの主権回復のために占領軍即時撤退が不可欠である。

 8.人権の完全保障のために、占領軍は責任を有する。

 9.主権回復のためにまず何よりも経済的主権を回復するべきである。真に自由な政府のみがその後の政策を決定できる。

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