ロゴ:童話作家のこぼればなしロゴ 2006年08月18日発行949号

〈57〉『なくなるツバメのマーク』

 韓国の郵便ポストには、ツバメが描かれている。全国どこの郵便局にも、3羽のツバメをモチーフにしたシンボルマークがしっかりとついている。いったいどうしてツバメなのか? それは韓国人ならだれでも知っている「フンブとノルブ」というむかし話に因(ちな)んでいる。

 ―むかしむかし、あるところにフンブとノルブという仲のいい兄弟がいた。ところが父親が死ぬと、兄のノルブは弟のフンブを追いだして父の遺産を独り占めしてしまった。

 ある日、フンブの家に巣をかけたツバメが、ヘビに襲われた。フンブは間一髪で、ヒナを救うが、足が折れてしまう。フンブが懸命に看病したおかげで、ヒナは無事に育ち、南へと飛んでいくことができた。

 春になると、あの、足を折ったヒナが、立派なツバメになってもどってきて、フンブにひょうたんの種を渡した。フンブが種をまくと、あら不思議。あっという間に芽をだして、どんどん育ち、大きな実をつけたのだ。中を割ると、お金や宝石がたくさんでてきたのである。

 うわさを聞きつけた兄のノルブは、非情にもツバメのヒナの足を折り、適当に包帯をまいて巣にもどした。やがて南へいってもどってきたツバメは、フンブのときと同じようにひょうたんの種を持ってきた。

 ノルブが育った実を割ると、泥やゴミ、おまけに鬼まででてきて、家をメチャメチャにこわしてしまった。住むところのなくなったノルブは、重い心をかかえながらフンブの家をたずねた。兄に家を追いだされたフンブだが、ノルブを快く迎え入れたのだ。それからは、兄弟はむかしのように仲良く暮らした―

 日本の「舌きりスズメ」に似たこのお話のなかで、ツバメは「幸運の種」を持ってくる。そんなことから、郵便局のシンボルマークは、1984年からずうっとツバメだったのだ。

 しかしここにきて、社会の様子がずいぶんと変わってきた。世界有数の「デジタル国家」である韓国の郵便事業は、電子メールなどに押されて大赤字だ。しかし宅配業務や、金融商品は顕著な成績をあげている。ツバメのマークでは、今日の企業イメージを正確にあらわせないとして、ツバメに代わる新しいマークが公募されたのである。

 真面目に頑張ってさえいれば、いつかきっと必ず、ツバメがいい報せを持ってきてくれる! こんなあわただしい世相だからこそ、夢のあるツバメのマークのままでもいいと思うのだが……。韓国は、今、アメリカとのFTA(自由貿易協定)が、賛否両論、国論を二分している。昨年11月には農民の大規模なデモなどがあり、抗議行動が頻発している。もしも締結されると、郵便局も民営化されるのでは? 「ツバメ」の代わりに「憶測」が飛んでいる。

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