2006年09月22日発行953号 ロゴ:なんでも診察室

【子どもが犬のウンチを… 】

 「子どもが犬のウンチを食べたんですけど…」―お母さんからの悲痛な電話です。長い小児科人生ですが、初めての経験はまだまだあるのです。「うーん」と気張ってみてもとっさにどうすればよいかわかりません。「本当に食べたの?」と聞くと、口の中がウンチでいっぱいで、口を洗った時に大泣きし、あとは元気だそうです。ともかく、そのウンチを持って来てもらうことにして、その間にいろいろ調べようと考えました。

 犬に関する病気で日頃よく接するのが、犬の毛やふけに対するアレルギー、喘息やアトピー性皮膚炎です。次に、寄生虫、細菌やウイルスなど病原微生物の感染が考えられます。私も何回か経験した、リンパ腺が腫れる「猫ひっかき病」は犬からも移りますが、ウンチとは関係ないようです。狂犬病は日本では発生していません。「日本中毒情報センター」もウンチのことは知らないとのことでした。

 わからない時はまず手持ちの教科書を調べますが、犬のウンチのことは書いていませんでした。そこで、日本中の主な医学雑誌が網羅されている「医学中央雑誌」を検索しました。いくつの関連する文献がわかりました。昔だったら、厚さ何メートルにもなる本で調べたのですが、今はインターネットで簡単に調べられます。

 さすがに、ウンチを食べた報告は見つかりませんでしたが、いくつかのペットから移る病気の解説論文が見つかりました。犬からでは、イヌ回虫症があり、砂場などで主に子どもに口から移り、極めてまれに内臓や眼球に移行するそうです。その他、O―157で有名になった腸炎を起こす「病原性大腸菌」やサルモネラ、それに「Q熱」という変な名前の熱・頭痛を起こす病気、などがウンチと関係ありそうなことがわかりました。

 2004年の論文には、「今や、日本は空前のペットブーム」「年間およそ6千億円の市場」で、この背景には、個人生活の孤独化、人間関係の癒し希求などがあると書いていました。個々人や家庭が分断されているこの社会で、ペットもそれなりの役割を果たしているのでしょうが、やはり基本は人間同士のつながりを作ることです。その点、子どもがいると近所づきあいも広がりやすいものです。今年の子ども全交は、子どもを介して地域での日常的な交流の場を作ろうとしているとのことでした。この試みが、ペットに負けず広がるよう、応援したいと思います。

 そうそう、ウンチを食べた子ですが、そのウンチを検査したところ、病原性のあるものは見つかりませんでしたし、その後も元気にしているそうです。

(筆者は、小児科医)

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