2006年09月29日発行954号

上原公子国立市長 講演要旨

【国民保護法は国際人道法違反】

写真:

 国立市議会の条例案審議で、無防備地域宣言に対する誤った論点を覆す発言をしてきました。その結果、記録として一つの運動の法的根拠となる答弁ができたと思います。残念ながら条例は否決されましたが、私へのバッシングなど反対勢力の敏感な反応は続いています。それは、無防備地域運動が効果的であることの証拠です。自信を持ってこの活動を続けてください。

 今の社会は、憲法が改正されていなくても、危うい状況となっています。すでに、改正したのと同様の社会になっています。しかし「まだ大丈夫」と思っている人が多いのです。

 フランスで出版されたフランク・パブロフさんの『茶色の朝』という絵本があります。「茶色」は、あのナチスのイメージカラーです。1990年代、フランスで極右が台頭して大変な事態になったとき、作家の反対の意思表示として絵本が作られました。あるとき、茶色の猫を飼おうというペット特措法ができます。そのうち、茶色の猫以外に毒を与える監視団まで出てきます。周りの人間はおかしいなと思いながらも、雰囲気に呑み込まれ、誰も何も言いません。そして、茶色が社会の中で蔓延していくのです。どこか、今の日本の社会と似ていませんか。

 私は、2003年に有事三法案に危機感を感じ、44項目の質問書を政府に提出しました。そこで、日本国憲法97条の「基本的人権は侵すことのできない永久の権利」が、有事法案では制約されていることに驚きました。戦争になれば、みなさんの人権は制約されると法律で明確に言っているのです。考えない、人任せは大変危険です。

戦争できる国の仕掛け

 戦争をできる国の仕掛けが、法律上できてしまいました。国民保護法には、3つの問題点があります。1つは、国民保護計画の問題。計画を自治体が作るというのが、義務行為となっています。しかし、「いつまでに作れ」とは明記されていません。国立市は、国民保護協議会もまだ設置していません。急ぐ必要はないのです。国の基本計画は着上陸侵攻・ゲリラ・航空攻撃・弾道ミサイル攻撃の4類型に分けて作られます。例えば、ゲリラは事前にその活動を察知予測できませんし、ミサイルの攻撃目標を特定するのも困難です。基本指針には、両方とも屋内に避難してくださいとだけ書いています。そもそも計画を作るのに無理があります。

 2つめは、訓練の実施です。自然災害の訓練と一緒に行うことで、有事の避難訓練が日常的なものとなっています。訓練が続けば、自衛隊や迷彩服、装甲車に対する抵抗感がなくなっていきます。訓練を通して、国民の意識改革がなされていくのです。

 3つめは、組織の問題です。現在、東京では民間交番がどんどんできています。市民に警察の役割をさせることです。市民の善意やボランティアによって、本来警察がすべき仕事を市民に負わせています。街を守ることで市民の組織づくりができ上がっているのです。東京都では、治安に関する取り組みの予算が2003年3億1千万だったものが、今年116億円にも上りました。4年間で37倍も増加という背景には、いろんな組織を作らせる都の狙いがあります。

 国民保護法は、国際人道法と矛盾する法律となっています。国民保護法63条「警察官等による避難住民の誘導等」で、市町村が自衛隊に避難住民の誘導を要請できるようになっています。

 しかしジュネーブ条約追加議定書58条「攻撃の影響に対する予防措置」などをはじめ、文民と軍事施設の明確な区別という基本原則があります。軍人は文民を誘導してはいけないことになっているのです。自衛隊が国民を「守る」国民保護法は、国際人道法ジュネーブ条約違反です。ジュネーブ条約を批准した国として、条約を実行しないといけません。

市民守る無防備宣言

 はっきり言って、戦争が起こったら、市民を守ることはできません。自治体の首長として、そんな保障ができないような戦争法に賛成するわけにはいきません。市民を守ることができるものがあるとするならば、それは無防備地域宣言です。各自治体が戦争放棄の町になれば、戦争はできません。実質的に9条が自治体から実現できるようになります。

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS