2006年10月13日発行956号 books

どくしょ室 / 「命どぅ宝」歪めた靖国思想

『沖縄から靖国を問う』 金城実著 / 宇多出版企画 / 本体1000円+税

小泉の靖国神社参拝に抗議する著者(右端)
写真:

 沖縄の離島で生を受けた筆者金城実が2歳になる前の1941年、父は「志願兵」として出征した。「立派な日本人」になるために。そして南太平洋で戦死し、靖国神社に祀られた。沖縄では徹底した皇民化教育が行われた。天皇のために命を投げ出すことが「日本人」の証だった。

 筆者は、小泉首相靖国参拝違憲沖縄訴訟の原告団長だ。「沖縄から靖国を問う」ことは、沖縄戦をテーマに「戦争と人間」100メートル・レリーフ制作をライフワークとする彫刻家として、必然であった。

 靖国に合祀されたのは軍人ばかりではなかった。戦場となった沖縄では、日本軍が住民を虐殺し、「集団死」に追いやった。沖縄戦で日本軍に殺された人々までも「尊い神」として靖国に祀られているのである。ここに沖縄から靖国を問う意味がある。

 政府は、アジア太平洋戦争時に国と雇用関係にあった軍人等に対し恩給などを支給し、「国家への忠誠心」をつなぎ止めている。「援護法」(戦傷病者戦没者遺族等援護法)により障害年金や遺族年金の支給を受けるには、少なくとも国家と雇用類似の関係がなければならない。沖縄には、この「援護法」の対象となっている人が多数存在する。

 「(靖国神社の資料には)『援護法』の適用認定で母は沖縄守備隊に所属していたとウソが書かれていた。母が戦争を美化する靖国で悪用されていることに怒りを覚えた」

 沖縄靖国訴訟の控訴審での原告の証言だ。つまり、日本兵にスパイ扱いされ虐殺された人も、「集団死」を強制された人々も、日本軍に協力した準軍属とすることで、「援護法」の対象となった。そして軍に虐殺されながら、侵略を賛美する靖国の「神」とされた。これが、沖縄戦の実相を語らせない口封じの役割を果たしているのだ。

 父の死を「犬死にだった」と言い切る筆者は、「沖縄県民はお国のために死んでくれたという美談の上に立つ靖国」の虚構を許さない。

 靖国訴訟は、日本国内ばかりでなく、台湾・韓国からも取り組まれている。本書には両国の訴訟団との交流訪問記が掲載されている。

 帝国日本は、植民地台湾・朝鮮の人々を「日本兵」として侵略戦争に利用しながら、「援護法」の対象とはしなかった。沖縄もまた、侵略戦争に利用された体験を美化され、戦後もなお基地の島として、日本にあって捨てられたままだ。

 米軍再編とともに強化される日本の軍事力。美化される侵略の歴史。その一つ一つを沖縄は最前線で感じている。筆者は、自殺者を決して讃えない沖縄の文化を語ることで、無為な死を「栄誉」と言い換える靖国を問うている。

 それはかつて戦争を賛美した芸術家たちと自らの芸術・文化を峻別するためでもある。

(T)

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