2006年12月22日発行966号

【イラク研究グループ報告書 撤退表明に追い込まれた米国支配層 全面撤退要求を強める時】

 12月6日、行きづまったイラク政策をめぐって米議会が超党派で設置したイラク研究グループ(Iraq Study Group 、共和党のベーカー元国務長官・民主党のハミルトン元下院外交委員長が共同議長)が9か月にわたって行った活動の報告書を発表した。同報告書に示された79件の勧告の柱は、(1)イラクを含め中東地域で新しい政治的・外交的取り組みに政策転換すること(2)イラク内の米軍戦闘部隊を2008年3月までに撤退させることだ。米国と世界の反戦運動は、米支配層自らイラク政策の根本的転換を打ち出すことを余儀なくさせたのである。


撤退期限をはじめて明示

 イラク研究グループ(以下「ISG」)の設置自体、ブッシュのイラク占領の行きづまりとそれに対する米国民の怒りの増大がもたらしたものだ。

米国労働者とデモ行進するサミール・アディルIFC議長
(オハイオ州、クリーブランド。写真提供・マブイシネコープ)
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 国防長官・国務長官経験者を含む共和党・民主党のいわば「大物政治家」10人で結成されたこの研究グループは、米軍撤退を求める圧倒的多数の米国民や米兵家族、ましてイラク民衆の立場に立ったものではない。彼らは、ブッシュ政権のイラク政策破綻がもたらす内外での威信失墜、占領費支出の歯止めのない増大、米軍兵士の犠牲と国民の不信の深刻化のなかで、グローバル資本をはじめとする米国の支配層全体の利益を守る立場から、ブッシュの無策をもはや放置できないと判断し、政策転換を迫ってるのである。

 しかし、ISGの立場・目的がどうであれ、その報告書内容は反戦世論によって余儀なくされたものであり、戦争に反対しイラク占領終結を求める勢力にとって重大な意味を持っている。

 勧告の持つ最も大きな意味は、イラクからの米軍撤退を米国が遂行しなければならない重要課題として確定させたことだ。

 ISGは、2008年第1四半期(1〜3月)までに戦闘部隊の撤退が可能と宣言した。初めて撤退の具体的日程が提出された。

 報告書は、米軍の永久駐留を否定する一方で、即時全面撤退も「非現実的」として否定している。しかし、「イラク政策転換」を内外に示すために、撤退の具体的日程を明記することを認めざるを得ない。米国支配層や共和・民主両党の政治家には、2008年秋の大統領選の前までに「イラク政策の転換」と呼びうる大規模な部隊撤退の遂行が突きつけられている。米国民は米中間選挙で撤退を求める意思を明確に突きつけたからである。

★占領継続の狙いが

 他方で報告書は、イラクの石油政策に言及し、国営石油企業の民営化などを勧告している。それは、グローバル資本があくまでイラクの石油利権を求めていることを示している。そのために、戦闘部隊の形や名前を変えて軍事力を残そうという意思が随所に表れている。米国最大の反戦団体UFPJ(平和と正義のための連合)が「勧告は形を変えた占領の継続」と批判しているのは、その狙いを見抜いているからだ。

ネオコン路線は破産

UFPJが呼びかけるワシントン行動(07年1月27日)ポスター
写真:

 ISG報告書の第2の意味は、軍事力によるイラク・中東支配を強行してきたブッシュやラムズフェルドらの戦争政策=「ネオコン路線」が破綻したことを、はっきりと宣告したことだ。

 ブッシュらネオコン勢力は、最新鋭・最強の米軍事力を先制使用してイラクのフセイン政権を打倒し米国のかいらい政権にすりかえれば、イラクを中東全域とその莫大な石油資源に対する支配拡大の拠点に作り変えられると考えた。

 2002年1月、ブッシュは一般教書演説(施政方針演説)でイラク、イラン、朝鮮民主主義人民共和国を「悪の枢軸」と呼び、イラク攻撃の「正当化」をはかり、イランも宣戦布告・政権打倒の対象と位置付けた。2003年イラク開戦直後の4月には、ラムズフェルド国防長官がシリアをテロ支援国家と非難した。ネオコン勢力はイランやシリアを次の軍事標的として狙っていた。

 いまISG報告書は、事態を軍事的に解決することは不可能と明言し、政治的・外交的努力を強化することを提唱。ブッシュ政権に「イラン、シリアを含むイラク国際支援グループの組織」「イラン、シリアとの建設的関係構築」を勧告している。自国に協力しない国家を「悪」「テロリスト国家」と決め付けて、軍事力の先制使用を当然としてきたネオコンの論理が破綻したことを米国支配層も認めざるを得なくなった。

 さらに、イラン、シリアの「協力」をとりつけるために、中東和平破壊を支えたブッシュのイスラエル擁護政策の変更も迫っている。イスラエル、パレスチナにレバノン、シリアを加えた新しい和平交渉の枠組みを勧告した。ネオコンが描いた中東戦略とはまったく逆の事態となっている。ISG報告書にイスラエルが露骨に反発していることにそれが示されている。

米国民の要求は即時撤退

 米国民はこのISG報告書をどのように見ているのか。

 ニューズウィークの世論調査では賛成が39%で反対が20%を占めた。だが、報告書発表の直前にAP通信が行なった世論調査では、全駐留米軍の撤退を求める設問に「6か月以内」という回答が60%、「2年以内」では71%に達している。また、イラクの安定化・民主化を予想する声が36%に対し、安定化への悲観論は63%にものぼっている。

 米国民がISG報告書に満足することはない。「イラク民主化」や「安定」というごまかしなど信用せず、米軍のすみやかな全面撤退を強く求めている。この世論を背景に、UFPJは米連邦議会の始まる来年1月27日、即時撤退を突きつけるワシントン大行動を準備している。

★展望はIFC

 イラク民衆が求めるものは占領軍の即時撤退だ。

 イラクの安定化のためにイランやシリアの協力が重要というのは、まったくのジョークだ。占領軍とともにそれらの国の意を受けた勢力が宗派主義や民族主義の暴力を持ち込み、破局的状況を作り出した。「イラク支援」の名による近隣諸国の介入は、利権争いをさらに激化させ、いっそうの大惨事を引き起こす。

 イラクの再建と民主化は、占領軍即時撤退をはじめ外国勢力の介入を排除し、イラク民衆が政教分離の政府を樹立して、宗派主義や民族主義を排除することで国民和解をすすめる方向にしかない。イラク自由会議(IFC)こそ、それを推進する力である。

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