2007年02月02日発行971号

【パート労働法「改正」案 差別は温存し労働は過酷に】

4人に1人がパート

 厚生労働省は1月16日、「短時間労働者の雇用管理の改善に関する法律(パート労働法)の一部を改正する法律案要綱」を取りまとめ、労働政策審議会に諮問した。パート労働法「改正」は、安倍首相が「再チャレンジ」促進策の柱の一つとするものだ。

 パート労働者は2005年で1266万人に達する。雇用者の4人に1人はパートで、正社員と比較した1時間当たりの給与は男性が53%、女性が69%。年収では正社員の3分の1にすぎない。政府も、格差社会批判が強まる中、パート労働者の「待遇改善」を取り上げざるを得なくなってきた。しかし、その内容は差別の禁止や均等待遇には全くつながらない。それどころか、パート労働にも正規雇用労働者の過酷な労働実態を導入することを狙っている。

非正規化の口実に

 そもそも、要綱がいう「差別的取扱い禁止」の対象者の条件を満たすパート労働者はほとんどいない。条件とは、”職務内容が正社員と同じで期限を定めずに労働契約を締結している者”をさす。これでほとんどのパート労働者は除外されるが、さらに「雇用の全期間を通じ、正社員と同様の態様および頻度での職務変更が見込まれる者」と対象を絞り込む。

 厚労省ですら、実際の対象人数は「分からない」とする。企業側の調査でも、期限を定めない契約のパート労働者を雇う事業所が2割、仕事内容や転勤の扱いなどが正社員と同じパート労働者を雇う企業は15%にとどまる。事業所の数の調査であることを考慮すると、実際該当するパート労働者の比率はもっと少ない。

 法改定を見越し、すでに就業規則を改正し、正社員の定義を「残業や転居を伴う転勤のある社員」として、それに応じられない者はパートタイム契約に転換させる企業が増えている。正社員の待遇をより厳しくすることで、「差別的取扱い禁止」規定をいとも簡単に回避できるのである。

 要綱は、正社員への転換促進策として、正社員の募集情報を伝えて応募機会を与えることや試験制度の導入、教育訓練への援助のいずれかの措置を義務づける。しかし、正社員への転換そのものは義務付けられていない。何の実効性もないこれらの措置をとれば、仮に正社員への転換がまったく進んでいなくても罰則も課されないのである。

 トヨタ自動車人事部企画室の荻野勝彦部長(厚生労働省各種委員会歴任)も「均衡待遇については…現実的なものとなっており…かなりリーズナブルなものとなっていると評価できる」と差別温存を自賛しているのである。

パートにも成果主義

 重大な問題を含むのは、「事業主は、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間労働者の職務の内容若しくは成果、意欲、能力又は経験等を勘案し、その賃金を決定するように努めるものとする」との規定だ。

 通常、パート労働者に適用されているのは一律時間給。要は、「均衡」の名で、正規雇用労働者への適用が急速に拡大している成果主義賃金システムをパートにも導入するなど、より過酷な競争原理に引きずり込むことが狙いなのだ。販売店の店長職などにも正社員に替わってパート労働者を起用することは、特殊な例ではない。パート労働を補助的労働から、基幹的な労働にしようとするグローバル資本は、成果や能力を基準にした個別処遇をパート労働にも適用しようとしている。

 だが、ILO(国際労働機関)パート労働条約(175号、日本は未批准)は正社員との差別を禁止する「均等待遇の原則」を定め、EU(欧州連合)諸国でも適用されつつある。これが国際基準だ。

 差別を容認しいっそうの競争を煽る要綱の「均衡処遇」などではなく、ILO175号条約批准、同一価値労働同一賃金の原則を確立する闘いに立ち上がろう。

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