2007年03月09日発行976号

【シネマ観客席 / グアンタナモ、僕達が見た真実 / 監督 マイケル・ウィンターボトム / マット・ホワイトクロス 2006年 / 米軍の人権侵害を告発】

 2004年3月、イギリスの小さな町ティプトンに3人の若者が帰ってきた。キューバにあるアメリカ海軍グアンタナモ基地で2年以上にわたり拘留された末に自由の身となった彼らは、ティプトン・スリーとして世界に知られるようになった。映画『グアンタナモ、僕達の見た真実』は彼らの足取りを再現し、アメリカ軍による非道な人権侵害の実態と、それと闘いぬいた若者たちの姿を描き出す。

旅行者を不当拘束

 19歳のアシフ・イクバルは、パキスタン系のイギリス人だ。2001年、彼は故国で結婚式を挙げることになり、友人らとパキスタンへと向かう。折りしも10月7日、米英軍は隣国のアフガニスタンに対して空爆を開始。ある日、モスクを訪れたアシフらは、現地の混乱の様子を聞き、ボランティアを募っていることを知った。「自分の目で確かめよう」。若者らしい好奇心と冒険心に駆られ、彼らはバスで国境を越える−。それが、2年半に及ぶ数奇で悲惨な体験の幕開けとなった。

 3人は、病気や事故と様々なトラブルを経ながら荒涼とした大地を進むが、攻撃は激化し続け、累々たる死体の中、ついに捕えられてしまう。アフガニスタン北部の収容所を経て彼らはグアンタナモへと送られる。

 グアンタナモ基地は、アメリカが約100年前に締結した条約を根拠に、キューバ政府の返還要求を無視して半永久的に借用し続けている。広さは116平方キロメートル。極東最大の基地である沖縄嘉手納基地の5倍以上にも及ぶ。グアンタナモには常時「容疑者」が数百人収監されているが、これまで起訴されたのは10人程度に過ぎず、有罪は1人もいない。

 監督は、3人と1か月の間共同で生活して徹底的にその体験を聞き取り、その実情を掘り起こした。さすがに収容された基地での撮影はできなかったが、平面図や使用されている資材まで徹底的に調べて再現した。当の3人が「現地へ行ったのか」と驚いたというから、その精密ぶりが想像できる。俳優による演技の合間に本人のインタビュー場面を挟む構成で体験と感情とが一体となって観る者に迫ってくる。

すさまじい拷問

 3人は何の容疑者でも捕虜でもなく単なる旅行者なのだから、拘束それ自体がむちゃくちゃなのだが、それを差しおいても、拷問と虐待の有り様はすさまじい限りだ。

 死体だらけのコンテナの移動で、生者は暗闇の中で壁を伝う水滴をすすって渇きをしのぐ。灼熱の太陽の下で、赤い拘禁服と目隠しのままで一日中座らせられ、隔離房では手と足を拘束したままで大音響を聞かせる。コーランを糞尿にまみれさせ、精神的虐待を加える。

 銃を頭に突きつけた「取り調べ」では殴る蹴るは当たり前。ただただ「テロリストだろう」「戦闘員だろう」の繰り返し。アフガニスタン国内で開かれたビン・ラディンらによる反米集会の写真を見せて「お前はここにいただろう」とサインを迫り、「お前の友人は罪を認めた」と友情も切り裂こうとする。「尋問」していた英国大使館員は米兵が演じていたという冗談みたいな話までが明るみになっている。

 こんな扱いが2年以上にもわたるのだが、ついに3人は解放される。3人が無実を訴え続ける一方で、家族らが訴訟を起こすなど、運動は広がり、グアンタナモへの国際的な批判は高まっていった。自由を勝ち取ったその3か月後、ついに米連邦最高裁判所はグアンタナモについて「違憲」との判決を下した。

国際法違反を許すな

 苛烈な体験を闘い抜いたアシフらは振り返る。「想像もつかない状況に巻き込まれ、追い詰められたとき、人はつぶれてしまうのか、強くなるかだ。僕は強くなった。最初はきつかったが、僕は持ちこたえた」「人生は変わった。この世界はいいところではないが、僕は前向きに生きる」

 3人は映画の上映と合わせて、その体験を世界中で語っている。先ごろ日本を訪れた1人はこう呼びかけた。「グアンタナモの閉鎖のために皆さんもぜひ協力してください。このような国際法違反はこれ以上許してはいけないという声を、日本の政府にぜひ届けてください」。

 3人の訴えにどう応えるか。それを考えるヒントが、映画の中で唯一客席から笑いが起きた場面の中にある。それは、ラムズフェルド米国防長官(当時)が、グアンタナモについて語る実写フィルムだ。「人道的に扱っている。ジュネーブ条約に『大筋で』かなっている」と。他ならぬ彼ら自身がジュネーブ条約を引き合いに出さざるをえないのだ。基本的人権を尊重する国際的規範としてジュネーブ条約など国際人道法の権威を高める運動を世界に広げることが求められているのではないか。

          (M)

◆ 東京・シャンテシネで3 月9日まで上映中

◆ 大阪、京都、神戸では3 月3日から上映

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