2007年03月16日発行977号

【教育関連法改悪急ぐ安倍 「教育再生」とは教育破壊 生徒も教員も競争させ選別】

 安倍内閣は「教育再生」の名の下に、教育基本法改悪に続いて学校教育法など教育関連法の改悪を急いでいる。この改悪は、学校を児童・生徒の「人格の完成」の場から競争・選別と排除の場へと変貌させる。


国家のための教育へ

 昨年末の教育基本法改悪では、平和主義と基本的人権の尊重を基本理念とする憲法の精神にのっとった教育の基本理念を破壊し転換した。「教育の自主性の保障」から「教育の国家統制」へ、「国民のための国家」から「国家のための国民」へという180度の転換だ。その先にあるのは、市場原理に貫かれた競争・選別・排除の教育である。

 「国策教育促進法」ともいうべき改悪教育基本法を受けて、安倍内閣は学校教育法・教育職員免許法・地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地教行法)・教育公務員特例法の改悪を画策している。

 文部科学省は2月25日、中央教育審議会教育制度分科会・初等中等教育分科会で学校教育法・教員免許法等・地教行法の「改正に関する骨子案」を配布した。

 学校教育法は、小・中・高はじめ各学校の教育目標と教諭ら学校教育活動に携わる者の役割分担などを示している。教員免許法は、学校教育法に定められた教育に携わるための教員免許の取得・失効などの基準を規定。「等」とあるのは、教員の処分に関して「教育公務員特例法」の改悪も含むからだ。地教行法は、教育委員会制度について定めたものだ。

上意下達の学校運営

 改悪案が狙うのは、国策のための教育に向けた支配介入と、支配介入に抵抗する者の教育現場からの排除、そして、教員の非正規雇用化だ。

 現在の学校教育法では、児童・生徒の教育=授業や指導は教諭一人ひとりが直接に責任を負う。学校長は、それ以外の校務(教育条件整備、教育委員会との調整など)と職員の監督を業務としている。

 学校教育法の改悪案では、「副校長その他の新しい職の設置に関する事項」として、校長の校務を補佐し自らの権限で処理する「副校長」、副校長・教頭を補佐しつつ教育を担当する「主幹」、児童・生徒への教育指導について指導・助言する「指導教諭」など教諭の上に立つ役職を新設する。

 その理由として「教育基本法に学校教育においては体系的な教育が組織的に行わなければならないとの規定が置かれた」ことをあげている。だが多くの現場では、年間の教育計画によって「体系的」に授業や学校行事が進められ、教科や学年などの合議によって「組織的」に教育活動が行われてきた。改悪案があえて強調する「体系的組織的」な教育とは、校長を頂点とし、新設する副校長・主幹・指導教諭など幹部ポストを使ったピラミッド型の指揮命令系統を学校に持ち込むことを指す。国策に沿った教育を有無を言わさず実践させるためだ。

 その柱が、4月全国学力テストを突破口とした「学校評価」の強化であり、学校選択制を通じた選別・競争教育の推進である。

 このような「国策教育」を国が自治体に押し付ける手段が地教行法改悪案だ。「全国的な教育水準の確保や教育事務の適切な実施」=国の教育方針の貫徹のために、文部科学大臣に教育委員会への「勧告・指示」の権限を与えた。

免許剥奪と解雇で選別

 この教育を全国の教員に強制するものとして、教員免許の更新制が打ちだされた。

 免許法改悪案は、教員の資質向上のために教員免許の有効期間を10年とし、大学等での30時間程度の免許状更新講習を終了した者、勤務実績等によって免許状更新講習を受ける必要がないと認められた者だけが免許を更新できるとしている。修了しなければ免許が無効となり公立・私立を問わず教職にとどまることはできなくなる。「資質」の内実も講習の内容も明らかにせず、更新を義務付けることのみ決定しようとしている。

 あわせて、教育公務員特例法に「指導が不適切な教員の認定及び研修の実施等」の規定を置き、免職も含む処分を可能とする規定を盛り込もうとしている。

 「指導が不適切な教員」の認定は、「教育や医学の専門家や保護者など第三者からなる判定委員会の意見を聴いて」認定すると、いかにも公正であるかのように装っている。しかし、政府や自治体が設置する「第三者機関」とは、経済団体や大企業の役員、御用学者や御用評論家で構成され、あらかじめ決まった結論をつくろうためのものにすぎない。「不適切」と認定された教員は研修を強制され、再度判定委員会の意見による認定でなお「指導が不適切」とされれば、分限免職・教員免許剥奪等となる。

幹部以外は非正規職員に

 一連の改悪案は児童・生徒・保護者のためのものではなく、グローバル資本の求めに応えたものだ。そのことをあけすけに語っているのが、「文部科学省の義務教育改革に関する緊急提言」(04年11月30日)、「規制改革・民間開放推進会議」の第2次答申(05年12月21日)、第3次答申(06年12月25日)だ。

 まず、全国学力テストの結果の公開やその他の情報開示で学校のランク付けと教員のランク付けを行う。数値目標による評価には、当然、学力テストのランキングが大きく影響する。つまり、学力テストが上位の学校が評価の高い学校であり、高得点を児童・生徒にとらせることができる者が「教員適格者」となる。点を取らせることができない教員は「不適格者」だ。

 成績主義にもとづいて「適格者と不適格者」を振り分けるのが、教員免許更新や分限処分を含む教員任用制度だ。

 新任教員は条件付き採用期間経過後、さらに期限付きの任用期間を置き、「厳正な評価」をクリアした者のみ「期間の定めのない任用」=正職員として採用される。そして、「適性のない新規採用者」は任期切れで解雇、すでに雇用している者についても「分限処分の適正な運用」で解雇することを狙っている。これらの措置は「人材の採用後の流動性を高め」(第2次答申)、教育現場への非正規雇用導入を急速に進めるためだ。

 旧日経連は『新時代の日本的経営』(95年)で、終身雇用制を解体し、労働力を(1)「長期蓄積能力活用型グループ」(2)「高度専門能力活用型グループ」(3)「雇用柔軟型グループ」にわけ、(1)だけを正規雇用とし他を不安定雇用でまかなうことを主張した。

 資本にとっての公教育とは、せいぜい(2)型(3)型の労働力排出装置でしかなく、統廃合(リストラ)など当然だ。

 そこで働く教職員も同じだ。ピラミッドの上部を構成する校長、教頭、副校長、主幹、指導教諭などだけを(1)型労働力とし、他の教員は命令に対して従順に働けばそれで良い。資本の論理からすれば、幹部教員以外に高い給料を払って正教諭とする必要などなく、臨時講師、非正規のパート・アルバイトのほうが「効率的」となる。

 だが、教員自身が身分不安定で日々ギリギリの生活に終われる状況では、時間をかけて生徒に寄り添うことなど不可能だ。学校間の点取り競争に貢献できない生徒は、居場所を失うことになる。そのような学校現場はもはや教育=「人格の完成」の場ではない。

 教育関連法の改悪は、このような資本による教育の全面破壊に道を開く。

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