2007年04月27日発行983号

【どくしょ室 / 全国学力テスト、参加しません。 犬山市教育委員会の選択 / 犬山市教育委員会編 明石書店 本体1200円+税 / 「競争」よりも「学び合い」】

 文部科学省が行う「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)に、日本でただ一つ参加しない自治体がある。愛知県犬山市だ。本書は「日本の公教育の健全な発展にとって、不要かつ有害である」として学テ不参加を決定した犬山市教育委員会が、自らの考えを世に問うた一冊である。

 犬山市教委の学テ不参加の理由は明快だ。教育の場に競争原理を持ち込む全国学力テストは、同市の教育理念や実践してきたことに反する。だから「実施すべきではない」という。

 では、犬山市はどのような取り組みを行ってきたのか。犬山市教委は「犬山の子どもは犬山で育てる」を合言葉に、教育の地方自治を具現化した独自の教育改革を行ってきた。その中心が市独自の講師配置などで実現した「少人数学級・少人数学習」の実践である。

 たんに教員1人あたりの子どもを少なくする少人数学習なら他の自治体でも例があるが、犬山市の特徴は少人数ならではの授業法として、子どもどうしが学び合う「協同学習」を取り入れていることにある。

 ある学校では、教員がその日の学習内容や課題を説明した後は、子どもどうしが4人程度のグループに分かれ、学習を進めている。子どもたちは意見を出し合ったり、教え合ったりして自分たちで学び合えるようになったという。

 ちなみに、文部科学省が導入を促していいる「習熟度別学習」は原則的に行っていない。「考え方や習熟度が違う子どもが交流するなかで、豊かな学習は生まれる」からだ。

 「競争が教育の質を高める」という昨今の教育改革論に犬山市教委は「競争よりも協同が学習の動機づけには効果的だ」と反論する。競争は勝つ見込みのある一部の人間しか意欲づけることはできないし、自分の成長よりも勝つことが目的になってしまう。これに対し、協同学習は学び合いを通して勉強が苦手な子どもも意欲を失わずに学ぶことができる。そして、学力が高い子どもは教えることを通して学習内容がよりよく定着していく。

 「学習は個人的いとなみではなく、仲間と一緒に進めるもの」−−現場での教育実践でこうした確信を抱いた犬山市教委が、学校を競争と選別の場に変えてしまう全国学力テストを拒否したのは、地域の教育に責任を持つ教育委員会として当然の判断であった。

 本書を読んで思うのは、日本国憲法が規定する教育の地方自治が健全に機能すれば、新自由主義「教育改革」という国策に簡単に飲み込まれることはない、ということだ。教育委員会にはそれだけの権限が法律で与えられている。地域の教育はその地域の住民で考え決定できるのだ。

 全国学力テスト反対の運動を、教育を市民の手に取り戻していく第一歩にしなければならない。 (O)

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