2007年06月29日発行991号

【高齢者喰いものにしたコムスン 「儲けがすべて」の介護事業争奪戦】

低報酬サービス拒否する事業者

 厚生労働省による大手訪問介護事業者コムスンに対する事業所指定取り消し処分(6/6)から始まった一連の動きの中で、要介護高齢者が介護事業者の金儲けの道具として扱われる異常な実態が浮かび上がっている。

 コムスンが処分を受けたのは、訪問介護事業所が事業所指定を受ける条件(資格ある責任者の配置など)を満たしていないにもかかわらず満たしているとして虚偽申請したことや、実際には行っていない介護サービスの報酬請求で不当な利得を得ていたことなどからだ。

 介護保険は2000年にスタート。40歳以上の人から国が徴収した年間約7兆円の介護保険料と税で運営されている。自治体が保険者となり、被保険者の高齢者が要介護認定を受け、要介護度によって介護サービス利用の限度額が決定される。介護サービスを行うのは自治体から指定を受けたコムスンなどの事業者で、利用者(要介護者)から1割の利用料を受け取り、残り9割を保険者から介護報酬として受け取る。

 コムスンは訪問介護事業所を全国に2千か所持ち、6万5千人がそのサービスを利用しているといわれるが、その実態は介護や福祉と呼べるものではない。

 コムスンのケアセンターの責任者に配布される「社外秘」の研修テキストは「家事援助は赤字。やればやるほど収益が悪化します。極力避けましょう。逆に、身体介護は高収益です。できるだけ身体介護をとるようにしましょう」と記している(週刊文春6/21号)。

 介護報酬(30分〜1時間)では、洗濯・掃除の家事援助が1千500円〜2千円に対し、食事や排泄の世話など身体介護は4千円となっている。ヘルパーの多くはパート労働者で時給は1千円程度。家事援助では事業者の利益は500円〜1千円にしかならないが、身体介護では3千円になる。

 コムスンのケアセンターでは新規利用者の拡大と売り上げ(介護報酬)の拡大がノルマとされ、それを基準に介護労働が評価された。ノルマを達成すれば一時金、達成できなければ給料減額というアメとムチが使い分けられた。要介護老人の希望に沿って報酬単価の低い介護を行うヘルパーは退職に追い込まれる。ノルマをこなそうとすれば体を壊す。こうして、慢性的な人手不足をごまかす虚偽申請や売り上げ増をひねり出すための介護報酬の不正請求が生まれた。これが全国で発生しているのは、コムスンの親会社グッドウィルグループの折口会長がそのように誘導したからだ。

責任放棄の国と自治体

 コムスンが事業撤退・売却に追い込まれ、その事業の奪い合いに介護ビジネス最大手のニチイ学館、居酒屋チェーンのワタミ、ジャパンケアサービス、前身が土建屋のツクイ、スーパーのイーオンなどが群がっている。

 重度の介護認定を受けた人が限度額までサービスを利用すれば、最大月40万円の介護報酬を事業者にもたらす。要介護老人を囲い込んだ介護事業者がサービス選択を誘導し押し付けることで、杖で歩ける老人に電動車椅子をリースしたり、無駄な居宅リフォームを行わせたり、不必要な身体介護を増やすなどぼろ儲けができるからだ。グローバル資本と厚労省が進めた不安定雇用労働の拡大とその労働力を福祉分野に活用する道が開かれたことがこのぼろ儲けを可能にしてきた。このような問題には何も手がつけられていない。

 コムスンの一括買収を申し出ているニチイ学館は今年4月に東京都から介護報酬の「過大請求」を指摘され、返還指導を受けている。こうした詐欺行為をはたらく事業者が介護事業継承の筆頭候補となっているのだ。

 介護保険で民間営利企業の参入を認めたが、自治体は保険者として被保険者(国民)に対する介護サービスの質的量的確保の最終的責任を負っている。サービスが適切かどうかの把握の義務もある。この責任が過去も今も果たされていないことをコムスン騒動は証明している。

 介護保険制度は導入時に「介護の社会化」と「サービス選択自由化」をうたい文句とした。結果は、利用限度額の高い重度の要介護者が儲けの対象として優先され、それ以外は軽視された。選択の自由などどこにもない。費用負担は社会化したが、国民にその恩恵はない。むしろ介護財源に対する営利企業のアクセスと強奪の機会を広げたのだ。

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS