2020年01月17日 1608号

【新・哲学世間話 日本を貶めているのはだれなのか】

 いささか旧聞に属することだが、文化庁は当初交付を予定していた、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」への補助金の全額不交付を決定した(9月26日)。その理由が、芸術祭の一部を構成する「表現の不自由展・その後」の中に「日本軍慰安婦」を象徴する「平和の少女像」が展示されたことにあるのは明白である。決定に抗議して、文化庁の事業に携わってきた3名の委員が辞任している。

 問題は海外にも飛び火した。オーストリアの日本大使館は10月30日に、現地ウイーンで開催されていた国際的芸術展への「認定」を突如取り消した。展示内容が「反日的」で、「首相を侮辱している」というのが理由である。この展覧会は両国の「友好150周年事業」として外務省から認定されていたものである。

 両事件ともその構図は共通している。まず百田尚樹や高須克弥がネットで火をつけ、ネット右翼がツイッターで攻撃情報を拡散し、展覧会事務局に抗議や脅迫の行動を組織した。それに右派政治家(河村たかし名古屋市長、松井一郎大阪市長ら)が呼応し、自民党の「日本の尊厳と国益を守る会」と一緒に政府に圧力をかけるという構図である。

 これが国家権力による表現の自由の権利の破壊、弾圧であることは論を待たない。ここでは、あえてこの点は追及しない。問題にしたいのは、このような稚拙かつ愚劣な政府の措置が世界でどう受けとめられているか、である。

 ウイーンの芸術展に出展した美術家会田誠は、この問題での野党のヒアリングでこう嘆いた。「日本は文化的な二流国家に落ちちゃったな、と外国にみられる」。まさにその通りである。

 政府や為政者の見解に批判的な文化・芸術表現を、「国益を損なう」という極めて短絡的な理由で認めないことなど、世界の普通の「文化国家」「民主主義国家」ではとても考え難いことである。それは「世界の常識」を逸脱している。

 それゆえ、今回の政府の措置は、「日本は文化的にはまだその程度の国なんだ」という印象を世界中に振りまき、世界に「恥」をさらしたに等しいのである。

 「反日的だ」「国益を損なう」と叫んでいる連中に、こう問い返さねばならないだろう。日本を「文化二流国」に貶め、そのことで「国益を損なっている」のは、いったいだれなのか。

  (筆者は元大学教員)
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