2020年04月03日 1619号

【読書室/水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと/岸本聡子著 集英社新書 本体820円+税/民営化阻止は民主主義の闘い】

 水はコモン=社会の共有物である。本書は「水の供給は人権」として水道民営化に反対し再公営化を進めるヨーロッパの動きを紹介。日本での水道民営化反対のカギを提供する。

 2009年、市民の支持で再公営化を達成したパリは水メジャー(巨大グローバル企業)の本拠地だ。パリの水道事業は企業や株主の利益を優先した民営化の時期よりも大幅に収益が改善され、料金の値下げを実現した。パリの成功はヨーロッパの全体に広がった。

 イギリスでは、水道をはじめ民営化事業の再公営化を掲げたコービンが労働党党首となり、支持を拡大した。その原動力は若者が中心となった草の根の市民運動だ。著者は、コービン労働党がめざしている「新しい社会主義」は「グローバル資本が収奪していく富を地域社会経済に取り戻す公共経済と政治の民主化のプログラム」と評価する。

 市民の怒りと行動をバックに高まる再公営化運動は、社会的権利の実現をめざし、住民が直接参加する地方自治のスタイル生み出した。そのきっかけを作ったのがスペインのバルセロナ市だ。資本を恐れず、抑圧的なEUと国家を恐れず、移民受け入れを恐れず、民主主義実現による制裁を恐れない「フィアレス・シティ(恐れぬ自治体)」を提唱。2020年現在、世界の77都市に賛同のネットワークが広がっている。

 窮地に立つ水メジャーは、日本の市場を狙っている。昨年、水道事業の民営化促進法が成立し、政府は水道民営化を全国の自治体に迫っている。「命の水」を資本に売り飛ばしてはならない。この闘いは民主主義の実現の闘いであることを本書は伝える。   (N)
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