2021年07月02日 1680号

【オリンピックで神風頼み/菅がすがる「スポーツの力」/五輪の「感動」で忘れてくれ】

 命にかかわる感染症が大流行している最中にオリンピックを行うという「普通はない」ことに突き進む菅政権。「やってしまえば、こちらのもの。五輪の感動と興奮で政権に追い風が吹く」と思っている。菅首相の言う「スポーツの力」とは、こういうことらしい。

政治生命賭けた博打

 「五輪はまさに平和の祭典だ。一流のアスリートが東京に集まり、スポーツの力を世界に発信をしていく」。菅義偉首相は6月2日、コロナ禍の中で東京五輪・パラリンピックを開催する意義について、このように語った。同じフレーズを丸川珠代五輪担当相も口にしている。「我々はスポーツの力を信じて今までやってきた」(6/4)と。

 彼らの言う「スポーツの力」とは、オリンピックやサッカーW杯のような世界的スポーツイベントの影響力のことを指す。東京五輪の招致メッセージ(初期バージョン)をみてみよう。支配層が五輪に期待するものがよくわかる。

 「オリンピック・パラリンピックは夢をくれる。そして力をくれる。経済に力をくれる。仕事をつくる。それが未来をつくる。(中略)2020年までにあらゆるジャンルのニッポンを復活させるために。(中略)ニッポン心の復活を スポーツの力で」

 競技やアスリートへの言及はゼロ。五輪を政治的・経済的に利用したいという下心がひたすら語られている。要するに、ナショナリズムを高揚させたい(改憲運動の弾みとしたい)、経済効果で儲けたい、ということなのだ。

 この基本に加え、菅首相は「隠蔽・忘却効果」を期待している。五輪の「熱狂と感動」が政府に対する人びとの不満を吹き飛ばすと本気で信じているのだ。官邸筋の話だと、首相は周囲にこう漏らしているという。「池江璃花子(水泳選手)がメダルを取れば日本中が熱狂し、コロナなど忘れて総選挙で勝てる」(『文藝春秋』7月号)

 ジャーナリストの山田厚史によると、閣僚経験のある自民党議員は次のように語った。「広島、長野、北海道の国政選挙3連敗で明らかなように、このまま総選挙に突入すれば大敗する恐れがある。五輪を中止すれば、コロナ対策の失敗を認めたことになる。開催すれば、ナショナリズムが燃えて世論が変わるかもしれない。勝機はそこだけ。さまざまな不安には目をつむり、楽観的願望を頼りに突進する。第2次大戦末期にも似た展開です」

 つまり、菅首相にとってオリ・パラ開催は政治生命をかけた大博打なのだ。実際、菅は「俺は勝負したんだ」と側近議員らにくり返し語っている(6/18朝日)。命と暮らしを博打の賭け金は使われる人びとはたまったものではない。

米テレビは大儲け

 五輪マネーに群がる連中と言えば、「ぼったくり男爵」ことトーマス・バッハが会長を務めるIOC(国際オリンピック委員会)の面々が思い浮かぶ。だが、IOCを支えているのはグローバル巨大企業であることを忘れてはならない。

 「我が社史上、最も利益が高いオリンピックになる可能性がある」。米紙ロサンゼルスタイムズ(6/14付電子版)によると、東京五輪の米国向け放送権を持つ米テレビネットワークNBCのジェフ・シェル最高経営責任者(CEO)は投資家向けのオンライン会議でこう話した。

 NBCは今回の東京五輪で、過去最大規模の計7千時間に及ぶ放送を予定している。コロナ禍の巣ごもり需要で視聴率は上がるとみて、前回のリオ五輪で上げた収益(約1761億円)以上のソロバンを弾いているようなのだ。

 「開会式が始まれば、みんなコロナなどすっかり忘れて楽しむものさ。オリンピックとはそういうものだ」。シェルCEOはこう言って笑ったという。五輪に群がる外道の思考パターンは万国共通のようだ。

暴走を止めるのは市民

 政府、東京都、大会組織委員会らは五者会談を開き、有観客での開催(上限1万人。大会関係者や学校観戦は別枠)を決めた(6/21)。「熱狂・一体感・感動」の演出には観客の存在が欠かせないとする菅首相の意向が最優先された形だ。

 これで、なし崩し的に大会開催ということになれば、メディアは間違いなく態度を変えるだろう。テレビも新聞もオリンピック一色に染まり、「勇気と感動をありがとう」「やってよかった」「ニッポンすごい」式の翼賛報道をたれ流すことは目に見えている。

 だが、ウイルスは政府や五輪スポンサーに忖度したりはしない。感染再爆発のリスクが高まるのは確実だ。それでもオリ・パラを強行するほど日本は愚かなのか。そうではないことを証明したい。暴走列車を止めるのは市民である。  (M)

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