2021年07月09日 1681号

【中国包囲を狙ったG7/米バイデン「協調路線」も不発/経済問題を軍事対立にするな】

 6月11〜13日、英国で2年ぶりの対面開催(6/11〜13)となった主要7か国首脳会議(G7サミット)。米政府代表は、米国第一主義をうたった前大統領トランプから同盟国との協調路線をとるバイデン大統領に替わったが、「対中敵視政策」は変わらず、他の政府に同調を迫った。元はと言えば米中間の経済問題。軍事対立にエスカレートさせてはならない。

対中包囲網の演出

 米政府にとって今年のG7サミットは、トランプ前大統領の単独主義により低下した「権威」を取り戻し、「国際協調」のもとで「中国包囲網」をアピールする狙いがあった。だが結果を見れば米国の影響力の低下は明らかだ。

 採択した共同声明(6/13)を見てみる。前文、結語を含め70の段落。7項目に分類されている。

 「保健」の項目では、来年にかけて新たに10億回分に相当するワクチンの提供を表明した。中国のワクチン外交に対抗する意図は明らかだ。ところが、このワクチン10億回分の提供について、日本政府は現地に着くまで聞かされていなかったという。日本は3千万回分で同意したが、事前に相談するまでもなかったということか。

 日本政府はすでに台湾へワクチンを無償提供している。これも中国を意識したものだった。贈ったワクチンは日本国内では使用しなかったアストラゼネカ社製。これを接種した台湾人が4日間で36人死亡。台湾では日本への不信感が募り、かえって中国製ワクチンへの期待を高めることになった。

 共同声明は中国への対抗を意図した表現が随所にみられるが、結局は資本主義経済が生み出した課題に対する利害調整をはかるものだ。

 そんな中で、中国包囲網を際立たせるために招待されたのが、オーストラリア、インド、韓国そして南アフリカ共和国だった。

 共同声明の「グローバルな責任及び国際的な行動」の項で、ウイグル、香港での人権尊重を求めるとともに、「台湾海峡の平和及び安定」「東シナ海及び南シナ海の…現状変更の一方的試みに強く反対」と書いている。言うまでもなく、オーストラリアとインドは日米とともに「自由で開かれたインド太平洋」を軍事目標とするクアッドメンバー。韓国は米韓軍事同盟のもとで、準メンバーの位置づけと言える。

 南アは、アフリカにおける中国の影響に対抗するうえで必要だったと言える。

利害は一致せず

 だが、米政府の対中戦略で一枚岩となったわけではない。ドイツのメルケル首相は途上国へのインフラ支援のための作業部会を「中国に対抗する部会とするのか」とけん制。イタリアのドラギ首相も同調した(ネットニュースソクラ6/21)。中国の「一帯一路」政策に対抗する意味を持たせたい米政府の方針に全員が同意しているわけではない。

 ウイグル問題でも意見がまとまらず「会議室へのネットをすべて遮断する事態になった」(CNN6/12)。オーストラリアのモリソン首相は「いつでも話し合う用意がある」と中国との対話再開の意向を示した。フランスのマクロン大統領も「G7は中国に敵対するクラブではない」と対立一色となるのを抑えている。

 そもそもなぜ、米政権は中国を敵視するのかと言えば、対中貿易赤字は改善せず、経済的優位性が脅かされているからだ。中国のGDP(国内総生産)は、米国の約70%に達している。中国経済は新型コロナのダメージからいち早く脱し、今年の1〜3月のGDPはプラス18・3%、1992年以降最大の伸びを記録した。米国経済はコロナ前の水準に戻したとはいえ、6・4%の伸びにとどまっている。

 かつて米国経済を脅かした日本が米国からバッシングを受けたのは、80年代〜90年代半ばだった。日本のGDPが米国の60%を上回った時期と重なる。中国ではこれを米国の外交政策「60%ルール」と呼んでいる(経済産業研究所)。

 つまり、「民主主義、人権尊重」などは口実に過ぎない。中国経済との結びつきの度合いが、各国政府の対応の違いとなっているということだ。


産軍複合体の利益

 米政府の中国敵視政策は、こうした経済対立をイデオロギー対立にまで拡大し、軍事的緊張を高めようとするのである。産軍共同体の利権にかかわるからだ。

 敵対国を作り出し、危機感を煽れば煽るほど、最強の「矛」と最強の「盾」の開発に血道をあげる兵器産業の商機が広がる。「中国の脅威」は今や宇宙空間の軍事利用まで正当化させる。

 実際、米国の軍事費はここ数年増加し続け、2020年には7782億ドル(約86兆円)。中国と比べると総額で3倍、人口1人当たりにすれば実に13倍もの規模になっている。



 圧倒的な軍事力の差がある中での「南シナ海」や「台湾」の問題は、中国に軍事的脅威を与えるものといえる。特に、18年のペンス副大統領、20年のポンぺオ国務長官の中国非難演説は口を極めた。数々の挑発行為は、中国の軍事力強化を正当化することになる。

 菅政権は、米政府の対中敵視政策を最大限に利用し、「敵基地攻撃」部隊の整備や新基地建設、攻撃兵器の配備に突き進んでいる。軍事費は伸び続け5兆3千億円を超える。1人当たりにすれば中国の2・7倍にもなる。

 その一方で、経済的には日本の最大の貿易相手国として中国とは「良好」な関係を維持する必要がある。

 挑発の応酬をすることなく、対話による解決以外に選ぶべき道はないはずだ。

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